第一部
第一章
二人の仕事(2)
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得できずとも看過し、次に美羽と会うときにまた同じ失敗をしないように留意しておくことしかできない。そして今、この時だけ留意して、結局また同じような状況に置かれてしまえば、そのときの冷静さを欠いた気分に任せて美羽を抱きしめてしまったりするんだ。
……何とも言えんね。このすっきりした後のやるせなさというか、何度も何度も納得してはまた同じように納得した内容にケチをつけるかのように繰り返す問答。
このエンドレスループに終焉を与えるのがただの納得ではなく、心の底から満足した結果がもたらす納得か自己嫌悪から派生する「どうでもいいや」と、一種の諦めの気持ちのいずれか。俺はループを打ち切るかのように頭を振り払い、諦めるように思考を遮断した。
早くイブに会いに行こう。美羽じゃなくて、イブに……。
俺は卓上で煌々と部屋に明かりを灯す蝋燭の方を向いて、全力で息を飛ばした。しかし、その一種のプラズマなる状態は俺の吐息を受けて揺らぐだけ。消火はされずに、また先ほどと何も変わらずに煌々と灯りを灯した。
……横着はいかんな。
俺は結局ベッドから立ち上がり卓上前に移動し、振り返った際にベッドの位置を確認し、蝋燭の灯火を一息に吹き消した。部屋は一瞬で闇に包まれ、やがて廊下から僅かに差し込む別室の灯火だけが、俺の部屋をほんの僅かに照らした。
さぁ、今度こそ……。
俺はベッドに戻り、また足を投げ出し、その身を横たわらせる。今度こそ、完璧に目を閉じて、意識の主導権を睡魔に委ね、できるだけ何も考えずに。ただ、目を閉じる。
「……」
イブ……すぐ行くから、あと少しだけ……。少し、だけ……。
やがて、俺の意識はゆっくりと暗転し、この世界から遠ざかった。
………
……
…
玄関の扉をしっかりと閉めて、内側から鍵をかける。二段式の鍵。これで、鍵を持ってない人はうちに入ってくることはできない。
「……」
ボクは扉を背に寄りかかり、頭も扉に寄り添い、擡げた。
恭夜……くん。
心の中で問いかける、彼の名前。
息苦しくて、呼吸が早いよ……。
手を胸の前で組んで、胸元の鼓動に意識を集中するだけで……すぐにわかる。早くなった鼓動。いつもよりも、きっとものすごく早くなってる……。恭夜くんがボクことを抱きしめて、頭をずっと撫でてくれていたこと。いろいろあった今日の出来事だけど。そのことばかりが、ボクの頭の中でずっとリフレインしていて……。ついさっき、ほんの数メートル先でのこと。でもそのことを思い出すだけで、ボクの鼓動と呼吸は早くなっていく。
……ここじゃ、ダメ。とりあえず、部屋に戻らないと。
「ただいま……」
薄暗い廊下に響き渡る、ボクの声。反響しては虚空へと消えていく。後の残るのは、今の奥から聞こえてくる衣擦れの音。
お母さん。いるみたい、だね。
ホッと一息ついた
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