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Eve
第一部
第一章
二人の仕事(2)
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く硬く絞った。布から手へと滴は伝い、手からバケツへと滴は滴下していく。ジャバジャバという流水音から、やがてポタポタと滴下音に変わり、終息するまで。二三度手をバケツの上部で振り、手に残っていた水滴を弾き飛ばした。
「……」
ふと手の平に残る、きつく絞った後の赤みと痛み。さして気になるわけでもないが、物を絞ると大抵いつも手のひらを確認してしまうのは癖のようなものなのか。
まぁいいか。
俺は布を開き、これまた二三度バサバサと空で振り、しわを伸ばした。そしてそれを顔にギュッと押し当てて、顔に頭に体をしっかりと拭いていく。
いや……これが気持ちがいいったらありゃしない。仕事柄、移動範囲や行動の密度など、普通の貧困層の人間とは比較にならないほどだ。その疲れと汗を、この一枚の布に擦り付け、擦り取る。素晴らしい。
ついつい、何度も何度も絞り直しては同じように拭きなおしてしまう。悪いものが全て拭き取られていくようで、気分も段々と研ぎ澄まされていく。
……あともう一回、拭いておこうか。
そしてようやく一日の汗を拭き取り、もう一度絞り直してから先ほどまでと同じようにベッド脇の支え棒に引っかけておく。今日も、これくらいの気温があれば朝起きた時には乾いてるだろうと思う。
「ふぃー……」
俺は腰を降ろしていたベッドに、足を投げ出すようにして転がり込んだ。硬いベッドだけれども、下に敷いている数枚の布が多少のクッションの代わりをしてくれて、俺の身体は何と言うこともなくベッドにその身を横たえた。
……なんか、疲れたな。
目を閉じて、今日の出来事をよくよく振り返ってみる。さっき、帰路で考えていたことと同じようなこと。同じように脳裏にリフレインしては、また鮮明に鮮烈に脳裏に焼き付いた記憶を補完していくように上書きされていく。
広場での一連の出来事。高台で美羽を、軽く慰めたこと。美羽を慰めたことで浮き彫りになった、自分自身にも言えること、また自身を慰めたことや嘲笑したこと。美羽と一緒に誰を助けることもできなかった、第二大通りでの一連の仕事のこと。
「……」
そして、最後の美羽宅前で、美羽をこの両の腕に抱きしめたこと。
……正直な話。あれでよかったのかと、今になって思う。本当に美羽は俺にああされていて落ち着くことができたのか。あの時、美羽本人に聞いたときには確かに落ち着くことができたと、その口で俺に伝えてくれたけれども。今こうして、ここに寝転がって冷静な状態で思い出してみると、やっぱりあの時の行動が正しかったのかと、自問に耽る俺がいた。美羽にとっても、俺自身だって美羽を抱きしめることで余計に不安や焦燥、罪悪感に駆られてしまう現状があることも考えると、やっぱりあそこで抱きしめずに別れた方がよかったのではないかとも……。
深く考えたって、結局はどうすることもできない。納
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