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Eve
第一部
第一章
二人の仕事(2)
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も動かず、またあるものは屍となり。そして骸となり、生ぬるい夜風にその骨を晒していた。
「……」
相変わらず中は薄暗い。薪木の灯火は所々に灯るが、既に火種だけになってしまった灯火のほんのりと足元を照らす程度の種火ですらも、この闇夜の世界には頼もしい灯火だった。
人と散乱物には注意し、住居群の入口から階段へ。階段から廊下へ……。
どこまでも続くかのように長い廊下は、各部屋の住人が所々灯す明かりだけでも充分に明るく進みやすい。しかし、みながみな廊下と自室との間には何かしらの遮蔽物を一つ二つかませ、中には木の板で入口を完全に塞いでしまっている部屋さえもある。だけれども、中で揺らめく仄暗い灯火は薪の灯りだろうか。一応灯火がまだ生きていることから察するに、この部屋にもきっと住人はいるのだろとは思うけれども……。
何を考えているのかはよくもわからない。今からここで死を迎えようとしているのか、それとも人様が入ってくることを心の底から忌避しているのか。全てを遮断し、全ての恐怖から孤立し逃れようと部屋の隅で篭っているのか。
俺は完全に閉ざされた、一種の悲しみのようなものを醸す部屋を横目に、ただ足は止めることはなく通り過ぎた。
長い長い廊下を進み、やがてようやく視線の先に姿を現す、夜風に靡く自室の暖簾。
ようやくの帰還だ。
俺は、急ぎ足に自室の前まで寄り、廊下とそれとを隔てる暖簾を手で掻きわけ、重ったるい足を一つ踏み入れた。
「……ふぅ。」
その瞬間。やっと今日の一日の仕事を終えたんだなと。そんなちょっとした達成感が、ドッと津波のような疲労と並走しつつ実感として襲ってきた。大きな溜息が自然と一つ、俺の口から漏れ出で、俺は机の上に無造作に置かれた、美羽からもらった太めの蝋燭に、これまた美羽からもらった錆びついたライターで火を灯した。最初は小さな炎が仄暗く机の周辺を照らしだし、やがて大きな炎へと変わった蝋燭が灯す火は、部屋全体をほんのりと。しかし明るく照らし出した。
蝋燭とライター……本当の昔にはよく電気いらずの照明器具として用いられていたと聞くけれども、今となってはもう滅多に手に入らない貴重品だ。
俺は片手に持つライターを見出した。
あいつからは、いつもいろいろ便利な生活用品を譲ってもらってるからな……。今度何か礼でもしなけりゃなるまいよ。
俺はライターを蝋燭の脇に滑らせるように置くと、ベッドにドッと腰かけた。そのままベッド脇に掛けてあった一枚の布きれを引っ張って手に持ち、さらにベッド脇に水を張ったまま置かれた錆びたトタン製のバケツにおもむろに突っ込んだ。
……冷てえ。
手に伝うひんやりとした感触。染み入るような水の冷たさの後には、徐々に温かみを増してくる手の慣れ。しっかりと布に水がしみたことを確認してから、俺はそいつを水上に引き上げしっかりときつ
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