第一部
第一章
二人の仕事(2)
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理想郷と……この世界。
「……」
そして、あっちの世界にはイブがいる。こっちの世界で一番……意識しているのが美羽だとしても、あっちの世界で俺を待ってくれているイブと美羽。どちらを優先すると聞かれたら……俺は迷わずにイブを選ぶだろうと。そう思う。
確かに俺だって、美羽が俺に心を寄せてくれているとは思わない。あまり気にすることでもないのかもしれないけれども……さっきみたいなことがあると、ついつい意識してしちまう。いくら美羽が意気消沈していた、心身ともに疲弊していたからと言ってもさ。心の底から好きだというわけではない女の子を、この手で自ら抱きしめるだなんてこと。
なんとなくさ……悪い気がしてきちまうってもんだろ?なぁ、イブ。
道行く路地裏に転がる無数の木材やら建材やらが、俺の行路を阻むが、気にも留めず。建材が転がっていればその上を。トタンやら石ころが転がっていれば、跨ぎ蹴り飛ばし進む。
……それでもやっぱり、俺はイブを優先する。いくら、美羽が俺のことを嫌っていなかったとしても。俺が美羽のことをこの世界の誰よりも意識しているとしても。俺の世界のイブには適わない……。
俺が道行く先々に待つこの光景だって、毎度変わり映えのない死に満ちた世界であり、現実。昼か夜かなんてことすら、この世界では些細な問題にすらもならない。
でも、俺が今から行くであろう世界には、希望に満ちた世界があり、理想が待つ。どちらかの世界を選べと言われて、誰がこちらの世界を選ぶのか。
単刀直入に言う。好きな人がいる世界で、理想郷とも呼べる世界と。このこれ以上の廃れようがない、死に瀕した世界との何を比較対象にすればいい?
もちろん、この世界を捨てたいわけじゃない。むしろこの世界を、俺の理想とするあの世界に近づけたい。今のこの腐れきった、死に瀕した世界を何とかして変えたいと。だから俺と美羽は行動しているのに……。
路地裏を抜け、ようやく俺の部屋が属する住居群が俺の右脇に聳え立つ。今日も通りの凄惨さは語るにも心苦しいほどで、俺は目を逸らして前を見据えながら歩き続ける。
でも、二者択一。どちらかしか選べないのならどちらがいいかとなれば……この世界に選びたいと思える要素は限りなく零に等しかろう。変えたいと思う心を退けるかのごとく日を追うごとに姿を悪しくし、俺の目に映り込むこの世界を選ぼうと思える理由。
そんなもの、どうやったって見つからないじゃないか。
すっかり闇に包まれて、灯火がなければ道行くことも危ぶまれる大通り。軒並み立ち並ぶ巨大な住居群のうちの一つ。灯火に浮かび上がる、中と外とを隔てる木扉ですら粉々に破壊された入口へ、俺はようやく足を踏み入れた。
……大丈夫、だな。
昼間は人が蠢いていて然るべき入り口付近だが、今宵はみながみな地に倒れ伏していて、あるものは三角座りでピクリと
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