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Eve
第一部
第一章
二人の仕事(2)
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ように身体をピンと張りつめていたけれども、徐々に抜けていく体中の力み。美羽はいつのまにか俺の胸元に、ぽすっと頭を預けるようにして顔を埋めていて……。
久しぶりだな。美羽をこうやって抱きしめるのも。この前は俺たちの目の前で老人が、落下してきた住居群の瓦礫に押しつぶされたときだっけか……。泣きじゃくりながら、こんなぽすって感じじゃなくて、もっとこう押し付けるようにさ。ずっと泣いてたときが、たぶん最後。
今日は俺からだったけど、これでいいんだよな。美羽。
「そんなに疲れたんだ、今日は。」
「……ちょっと、ね。」
胸元にかかる美羽の僅かな重みが、少し圧を増す。ふと気づいた時には、いつの間にか美羽は両手で俺の胸倉辺りを握りしめ、瞳を閉じて深く顔を埋めていた。
俺はもう片方、空いていた左手を美羽の背中に回した。そっと触れて、おずおずと力を込めてゆっくりと抱き寄せて。少しでも、美羽の不安とか疲れが消えるならこれくらい、なんともない。
抑えられない胸の高鳴りを抑えるように、俺は美羽を優しくも力強く抱きしめた。
むしろ早くなった鼓動が聞かれないかとも思ったけれども。でもそんなことを気にするような美羽じゃないよな。友人の心臓の鼓動が早くなったなんてことを、その友人にわざわざ言うなんてこと。からかうでもない限り、きっと言わない。それに美羽は今でこそこんなに感傷的になってるけど、元気な時には俺をいろんな言動でいじってくるようなやつだもんな。
小さくて暖かい美羽の頭。押さえる右手に力が篭る。
そもそも、俺には……イブがいる。あっちの世界に戻れば、イブが待っていてくれてるんだ。
「……」
また、美羽の頭を支える手に力が篭ったような、そんな気がした。同時に俺の心に小さく刺さる棘が、急に疼いたような。そんな気も。
「……恭夜くん、ありがと。」
「え?」
「今日はさ……」
いったん言葉を途切り、口を閉じる美羽。少しの間が空いて……。
「恭夜くんの方から……こうしてくれたから。」
美羽は俺の胸元に埋めた顔は上げずに言った。美羽の小さく動く口、俺の服越しに肌を撫でていく美羽のまだ温かい吐息の感覚がくすぐったい。
「まぁ……たまにはな。」
駆け巡る二つの想い。俺はとても美羽を直視することはできず、視線を逸らせて頬をぽりぽりとかいた。顔をちょっとだけ上げた美羽が俺のその内心には気付かずとも、妙な様子に気付いたのか、俺を上目づかいで見据えながら小さく微笑んだ。
「あったかいなぁ……」
「……そ、そうか。」
俺は美羽から視線を逸らしながら。でも、美羽の頭を押さえていた手は今はすでに、さらっと流れるような美羽の髪を梳かすように、頭を撫でるようにさすり続けていた。美羽が、もう大丈夫と名残惜しそうに俺の胸元から自分から離れていくまでは、ずっと。休むこともなく、いつ
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