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Eve
第一部
第一章
二人の仕事(2)
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した一軒家が姿を現した。
レンガ造りと言ったか、以前に美羽に「この家、サビでできてるみたいだよなぁ。」とかなんとかうっかり口走ったときにはひどい目にあった記憶はまだ新しい。まあ、色合いがサビっぽいのは前々から思っていたことだけれども、それでもやっぱり統一されたムラのない外壁面と、この街の住家らしからぬ壮麗な佇まいからも、この街にありふれたサビついたトタン造りではない、気品に溢れた素材で作られているということは疑う余地もなく。やっぱり美羽の家が多少なりとも裕福な家系をなのだということも、疑いようもない事実なのだと見るたびに思う。
俺たちは美羽の家の玄関口に到着するまで、一緒に歩調を揃えて歩く。やがてたどり着く、所々のひび割れや塗装落ちは目に留まるけれども、それでも白く映える支柱に支えられた屋根付きの玄関。俺は玄関の手前で立ち止まり、俺の横を並んでいた美羽の背を押した。
「ほら、美羽。ゆっくり休んで。」
「うん……」
美羽の背中に軽く触れたか否か、ゆっくりと美羽は玄関口へと歩き出した。徐々にひらいていく距離。俺は、今日も疲れの色を隠せていない美羽の背中をじっと眺め続けた。
「ねぇ、恭夜くん。」
「ん?」
ふと、立ち止まる美羽。声をかけられ、返事を返す俺。だけれども、美羽はこちらを向かずに、玄関口を見つめたまま言葉だけ紡ぐ。俺は美羽の言葉を待った。
「……やっぱ、なんでもない。」
「そうか?」
歯切れが悪く、特に俺に伝えることもなく美羽は口をつぐんだ。そのまましばらく、美羽は無言でその場に立ち尽くしていた。歩き出そうか歩き出さまいか、それに何かと葛藤しているようにも見えるけれども、美羽はただ無言で。ただ時間だけが刻一刻と過ぎていく。
……んー、最近あまりやってこないと思ってたけど。あれかな。
脳裏を過る一つの答え。美羽の行動の理由に、一つだけ思い当たる節があった。
「美羽。」
「……」
スッと俺の方を振り返り、疲れ切った顔を覗かせた美羽。今日はまた一段と疲れている様相だけれども、俺は僅かに口角を上げて玄関口の前でこちらを向いて立ち止まる美羽の方へと歩み寄った。
詰め寄る距離。さっきまで少しづつ開いていた距離が、今度はまた少しづつ縮まっていく。
「恭夜、くん?」
俺たちの20cm以上もある背の差。美羽が近づく俺を見て、見上げるように顔が上を向いていく。俺は特に何も言葉にせず、近づく美羽との距離はもう手を伸ばせば触れられる距離。俺は最後の一歩を踏み出して、ゆっくりと美羽のサラッとした横髪を梳かすように手を通し、後頭部へと回した。
「あ……」
美羽の小さく、漏れるかのような声が、俺の胸元から俺の鼓膜を震わせた。俺は美羽の後頭部をもう少しだけ強めに抑える。
「なんか久しぶりな気がするけどな。」
「……うん。」
美羽は強張った
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