第十一話 人として、人でなしとして
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夢を語り、周囲の友人や両親に驚かれた事は遠沢の記憶に残っている。
そんな遠沢に転機が訪れたのは12歳の頃、小学校最後の夏休みだった。その転機というのは、思いもよらない災難だった。
交通事故。大型トラックと、両親と乗っていた乗用車が激突した。助手席の母は原型を留めずして即死。父と遠沢は瀕死の状態で病院に運び込まれた。この時の記憶は、ハッキリせず曖昧である。ただ、痛く、苦しく、辛かった。死にたくない、本気でそう思った。
ある日、麻酔が切れて、また痛みに悶えていた時、医者が毒々しい色の薬を持ってきた。
ここだけは記憶がハッキリしている。身体中につながれた点滴のどれかに、その薬は流し込まれた。その薬は、体に入ってくるのがハッキリと分かった。その薬は体内で、“暴れ始めた”。
先ほどまでの苦しみが馬鹿らしくなるくらい、その薬は凶暴だった。言葉では表現できない苦しみが遠沢を襲った。これが死か。死の苦しみなのか。そうぼんやりと思った遠沢は、また思った。
死にたくない。
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気がついたら遠沢は、健康体に戻っていた。
体の傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
事故の前より、体に力が漲るようになっていた。
「……嘘みたいだ」
ズタズタになっていたはずの遠沢の体が跡一つ無くなっていたのを見て、医者は目を丸くした。
信じられない。顔がそう言っていた。
そして、“迎え”が来た。
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「東機関局長の上戸です。今日からあなたのお世話をさせて頂きます」
初めて会った上戸は、50歳近い、“綺麗なおばさん”だった。
「え?お父さん、お母さんは……」
「亡くなりました。ご冥福をお祈りします。」
遠沢は、不思議な事にショックも受けなかった。あの事故で、生きているはずも無いか。そう冷静に判断できている自分が居て、そこに遠沢自身が驚いた。どうして、涙の一つも出ないのだろうか。
「お父さんとは、旧知の仲でした。私たちが最近手に入れた、新しい薬がありまして、お父さんがそれをあなたに使って欲しいと。その薬のおかげであなたは助かりました。多分、その薬が無いとあなたは今頃死んでいたでしょう。」
「…………」
その薬とは、あの不思議な色をした薬の事なんだろうな。遠沢は薬を使われた時の苦しみを思い出した。薬は毒とも変わらないと聞いた事があるが、なるほど、とても良く効く薬らしい。
「……お父さんが、死に際に奇跡的に目を覚まして、そして私に頼んだのです。幸せ草を使えと。運命というものがあるのなら、恐らくこれがそうなのでしょうね。」
そう言って上戸は目頭を押さえた。
上戸が泣いているのを見たのは、遠沢はこれが最初で最
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