第十一話 人として、人でなしとして
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胸ぐらを掴んだその手を下ろした。
その目は、あのプラットフォームで見た時と同じような、ちゃんと感情のある、人間の目だった。
「……何を言ってやがるんだ。お前も俺と同じ人間だろうが、アホ」
長岡が静かに言うと、遠沢の目が、また表情を変えた。戸惑い。明らかに戸惑っていた。
それを見ると、やはり人間だ。ロボットのように冷たく見えるし、まるで化け物のような力を持っているが、それでもやはり、表情のある人間だ。
「副長こそ何を言ってるんですか。私の力を見たでしょう?これが人間にできる事ですか?」
「いーや、違う!お前は人間だ。俺が認めるんだけん、間違いない!」
「それは無茶苦茶です……」
目を逸らした遠沢の両肩を長岡は掴んだ。
肩甲骨が浮いている。実に華奢な、若い女の体だった。整った鼻筋、形良く尖った顎、切れ長の目、そんな遠沢の顔を長岡はじっと覗き込む。
「良いか、遠沢。お前も俺と同じ人間なんだ。だけん、自分だけで背負いこもうなんてすんな。こういう状況を作ったのには俺にも責任がある。いや、東機関の連中がコソコソ戦ってる事を知らず、知ろうともせず、かろうじて得られていた安定に乗っかってただただ生きてきた日本人全員に責任があるんだ。その状況の歪が今吹き出してるって事なんだろ。少数の人でなしを便利使いして、守られてきたツケが今回ってきてるんだ。人でなしなんて居ねぇんだよ。全部、同じ日本人がした事なんだ。だから背負うとしたら、日本人全員だ。俺にも背負わせろや。」
「…………ッ」
長岡はハッとした。遠沢の目が充血し、そして少しだけ潤んでいた。そんな顔を見たのも初めてだが、やはり確信する。遠沢は人間だ。
次の瞬間、遠沢の首筋に、長い待ち針のようなものが突き刺さった。
「!!」
「感動的な場面に悪いけど」
女の声が響く。
いつの間にか風呂元がそこに立っていた。
勝ち誇った顔をしている。
「やっぱりこの子は化け物よ。長岡副長、あなたが何をどう言ってこの子が人間だと言い張っても、世の中で同じ事を思ってくれる人がどれだけ居ますかね?ここまでの力を持つ子を普通の人間だと思ってくれる人が。障害児ですら受け入れられない世の人間が、こんな人外を受け入れられるものですか。」
「何ィ!?」
「ま、心だけでも人間か、それを今から試してあげましょうか」
風呂元がにぃ、と笑う。
遠沢は首筋に刺さった針を抜こうとしたが、そうするより早く、遠沢の視界が暗闇に落ちていった。
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遠沢法代の父親は内務省官僚だった。
それなりに裕福な家庭に一人娘として育ち、大人しく、しかし心根の優しい子どもとして育った。
将来の夢は何だっただろうか。しかし、婦人の社会進出著しい中で、意外な
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