第十一話 人として、人でなしとして
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は死ねェ!」
長岡はポケットに忍ばせていた拳銃を取り出して、銃口を脇本に向けた。この拳銃にやっと出番が来た。脇本は壁を背にして、右手を押さえて動かない。その気の弱そうな顔が強張る。今度こそ、本当の恐怖が見て取れた。その目から実にあっさりと涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「…………」
長岡は中々引き金を引けなかった。何故か、人差し指に力が入らない。自分をまるで化け物を見るような目で見て、カタカタと震えている脇本。殺す。殺すつもりなのだが、何故か引き金を引けない。長岡は焦った。何でだ、どうして撃てない?殺す。殺せ。殺さなきゃいけん。
「ごぉあっ!」
「!!」
そうこうしているうちに、遠沢の触手がまた飛んできた。脇本の心臓を突き刺して、すぐ触手は引っ込み、脇本は胸に空いた大穴から血を吹き出して絶命した。目は空いたまま、涙はまだ乾いていなかった。
「…………」
長岡は銃口を下ろした。
どうして撃てなかった?そんな苛立ちもあったが、一方でどこかホッとしている自分も居た。
「…….副長は優しいですね」
遠沢のこの一言は、撃てなかった苛立ちが膨らむ長岡の神経を逆撫でした。長岡は遠沢に駆け寄り、その薄い胸ぐらを掴んだ。
「優しさなんて今、必要ない事だろうがぁ!そんなもん、ただの甘さなんだって!どうしてお前がとどめを刺しちまうんだ!俺に殺らせろよ!でないと俺は……いつまでも人を殺すのが怖いままだ……」
「それで良いじゃないですか。普通は……普通の人間は殺すのが怖いんです。相手も同じ人間だと思うと、怖いはずなんです。それが普通で、真っ当なんですよ。」
「俺は軍人だぞォ!?殺す事を仕事にしてるんだ!二神島でも戦争やって、それは沢山殺したって事だ!それが今更よ、殺すのが怖い、普通の人間だなんだって、そんな訳があるか!そんなの許される訳がねぇよ……」
「無理に人でなしになる必要はありません。人を殺す事に慣れてしまったら、中々元には戻れませんよ。そういった普通の人間の感覚こそ、大事にして下さい。」
「だからそんなのは許されねぇんだって!」
「許します!私が!」
不意に大きな声を出されて、長岡は固まった。
遠沢は長岡の目をジッと見ていた。その目は、少し怒っていた。
「殺す事に慣れて、段々人を人と見れなくなっていく……そんなのは私達だけで十分です。これ以上、こちら側に来て欲しくないから、私達は、東機関はコソコソと、影に隠れて、誰にも感謝されないまま、殺すべき人間を殺し続けてるんです。戦い続けてるんですよ。だから、副長。殺せないなら、私にだけ殺させて居れば良いんです。私のような人でなしに。あなたは人間のままで居て下さい。」
遠沢の目は長岡を捉えて離さない。
その目つきに、長岡はどこか魅入ってしまい、
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