第五章
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「だったらこれでいいじゃない。違うかしら」
「うん」
一度は頷いた。
「それでいいわね」
早苗は洋子に念を押した。
「全部終わりで。納得しているわね」
「納得・・・・・・」
洋子はこの時俯いていた。そして心の中にあるものを見ていた。それは自分自身のことであった。
「どうなのかしら」
「それは」
次第にわかってきた。何故自分が今寂しい思いをしているのかを。悲しい気持ちを含んでいるのかを。そして何故彼と合って顔を赤くさせたのかを。全てを理解した。
「・・・・・・ええと」
洋子は戸惑いながらも言葉を出した。
「早苗」
「何かしら」
早苗は顔を変えずに洋子に対して問う。
「あのね」
洋子はもじもじとしていた。普段の気の強いはきはきとした感じは何処にもなかった。少なくとも友一に対するようなそれは全く見られなかった。
「彼、学校には来ているのよね」
「勿論よ」
早苗は静かにそう答えた。
「毎日ちゃんと来ているみたいね」
「そう、よかった」
それを聞いてまずは安心した。
「それでね、早苗」
洋子は言おうとする。だが言葉が中々出ない。
「あのね、えっと」
「言いたいことはわかっているわ」
しかし早苗はそんな彼女に対して優しい声をかけてきた。見ればその顔も優しげであった。
「稲富君のことよね」
「・・・・・・うん」
こくり、と頷いた。その小さな可愛らしい顔を赤くさせている。
「どうしたいの?」
「それは・・・・・・」
「言いたいことがあるのなら言ったら?」
急に突き放した調子になった。それでも洋子は言う。
「あのね」
もじもじとしながら言葉を出す。
「うん」
「彼にね、伝えて欲しいの」
「何て?」
「この前のことだけれど」
「何のことかしら」
「覚えていないの?」
「さて」
わざとらしくとぼける。しかし洋子はそれを見てさらに焦ってきた。
「覚えてないのね、あの時のこと」
「言われないとわからないから」
「わかったわ。この前部室で貴女にお願いしたことだけれど」
「そういうこともあったかしら」
「忘れてるみたいだから言うけれどね」
次第に泣きそうな顔になってきた。早苗はそれを黙って見ていた。優しげな様子もあえてかどうかはわからないが消してしまっていた。
「ほら、彼にもうつきまとなって言ってくれってお願いしたでしょ」
「そういえやそうだったわね」
思い出したように頷く。
「そのことだけれど」
「うん」
「取り消せないかなあ。ほら、あいつだって寂しいでしょうし」
顔を早苗から背けながら言う。俯いてもいるのでその表情は全然わからない。だが顔を真っ赤にさせているのはわかる。手までそうだからだ。残念ながら耳等はその黒くて長い髪の毛で見え
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