第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第四節 強襲 第四話 (通算第39話)
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「何!?黒いガンダムだとっ!?」
一瞬だけシャアの視界を塞いだのは、見たこともないモビルスーツであった。紺と真夜中色の機体色に黄色のラインと鳥のエンブレム。間違いなくティターンズのMSである。しかし、その機体は兵器というにはフォルムが人間的過ぎだった。その上、あまりにも連邦軍のフラッグ機たる《ガンダム》に似すぎていた。ジオンの技術――いや、スペースノイドを頑なに拒んだかのようなその機体は、シャアにとっては絶対民主主義という矛盾の象徴にしかみえない。その上、威圧感を考慮されたその色使いには嫌悪感しか抱けなかった。
シャアの知る《ガンダム》は敵ではあったが、好敵手…認めることのできる最強の敵であった。だが、コレはそうではない。禍々しい妖気、そして拭いきれない嫌悪感が《ガンダム》から滲み出している…そうとしか思えなかった。
通り過ぎた黒い《ガンダム》が右脚を前に振り出し、スラスターを噴かして急旋回した。そのまま、首を巡らせて側頭部に装備されたヘッドフォンのようなモノ――ガトリング・ポッドから十六ミリガトリング砲を連射する。だが、これはシャアに対する牽制に過ぎなかった。対人兵器でないガトリング・ホッドで動き回るMSから人間を狙い撃てるものではない。
「ここまでだな」
シャアは半ば敵のパイロットに呆れながら、踵を返す様にハンドジェットを噴かして空中で宙返りを打った。目指すは侵入したベイエリアだ。
如何にシャアとてノーマルスーツ一つでMSに対抗できる訳もない。ジグザグに飛行の軌道を変える。直線的動きはもちろん円運動すらパターンに填まらないランダムな動きだ。軽業師よろしく体を振り回し、ハンドジェットを操る。無風のはずの無重力地帯に《ガンダム》が起こす乱気流がシャアの体の自由を僅かに削いだ。無重力とはいえ、コロニー内には空気抵抗があるため、宇宙空間より動きが鈍る。しかし、それはMSとて同じである。逆に、無重力帯が僅かしかなく、直ぐに重力に捕まってしまう分、MSの方が行動しにくいともいえる。MSが対人とはいえ戦闘をするにはコロニーは狭過ぎるのだ。
ジャケットのポケットから手榴式爆薬を取り出しコロニーの外壁が近づくのを待つ。火線が次第にシャアの周囲に集まり始めた。
「人間に当てようというのか?」
執拗にガトリング砲を斉射する《ガンダム》のパイロットは頭に血が上って躍起になっているのだろう。火線の集まり具合から、腕が悪くないことは解るが、人を狙おうと考えてしまう辺りに柔軟性を欠いた思考の硬直さが窺える。エリートと言っても所詮は実践経験の少ない、血統主義特権階級の子弟である。本国の穏健派の如く闇雲にティターンズを恐れる必要も怯えも、シャアにはない。火線からMSの位置を知る手掛かりになるだけだ。
二十メートル…十メートル…。
振り返る余裕はない
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