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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第四節 強襲 第一話 (通算第36話)
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が内定している最新鋭機こそが《ドワーズ》である。既に六機の紛失事故は情報局の根回しと政治家同士の馴れ合いで決着がついているのだろう。
 後続の二機は先頭の赤いシャアの機体が描く不規則なコースにぴたりと追従してくる。《ガルバルディ》とは桁違いの機動性に振り回されることのない操作性は、衝撃緩和装置の働きもそうだが、アナハイム・エレクトロニクス社が開発した巨大な放熱鈑――クレイバインダーが有効に機能しているからだ。MSは四肢によるAMBACによって推進剤を消耗せず旋回や軌道修正することが可能であるが、《リックディアス》にはもう一対の可動肢としてクレイバインダーが備わっている。クレイバインダーは支点を中心に垂直三六○度と上下角±二○度をカバーする。この働きによって、より滑らかな機動が可能であった。増槽でもあり、シールドでもあり、スラスターでもある。杓文字をひっくり返した様な洋梨に似たそれは整備兵から《ヨウナシ》と言うニックネームを付けられていた。
「流石だな……随分と腕を上げた」
 二機の黒い《リックディアス》に搭乗するパイロット――アポリーとロベルトは、あの時、搭乗したのが《リックドム》であり、シャアの《ジオング》とは機体性能に雲泥の差があったため、戦闘中にはぐれることになったが、今はそこまでの開きはない。不馴れな機体には、慣れている。出撃のときに言葉を交わした整備兵も「昔と同じ」といった。シャアの予想外の場所にもジオンは入り込んでいた。何もかも期待以上といって良かった。
「あとは……」
 仕込んだタネが実を結ばずとも咲いていてくれればいい。だが、そうでなければ?
「シャア・アズナブルという男はそれまでの男だと言うのだな?ララァ!」
 瞼に浮かぶ女性をララァと呼んだことに気づき口を閉ざした。意識して呼んだのではない。つい口を衝いてでるのだ。恋――ではない。感じていたのは母のぬくもりではなかったか?アステロイドに閉塞している間に詮索したこともあったが、帰国後はそれどころではなくなり、癖と諦めることにした。
 ララァは優しく微笑み、消え去る。
 たった半年にも満たない間、ニュータイプとして利用した年端もいかぬ女に、どうして自分がこれほど呪縛されるのか。シャアにとっての疑念は、どちらかというとそういう類いのものだ。ララァは語らず、ただ見守っているだけなのだから。
「いかんな…今の私はクワトロ・バジーナだ」
 コクピットの実景は物言わず宇宙を映し続けている。パイロットを孤独にもするが、シャアには世俗の煩わしさから離れ、自分になれる場所でもあった。
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