第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第三節 過去 第四話 (通算第34話)
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アーガマに相対速度を合わせ、チベ改が静止する。静止といっても宇宙空間では絶対静止ではなく、相対的であり人間にとっての感覚的なものだ。静止衛星は地球上からみて静止しているようにみえるだけであり、現実には秒速?キロメートルで地球を周回している。
宇宙空間に浮かぶ白亜と臙脂の二隻の艦を繋ぐものはない。二隻は国籍の違いはあれど、規格は同一であり、互いに搭乗降橋で固定が可能だ。ジオン共和国軍のパプア級補給艦などには連結固定帯が具わっており、直接接舷することもあるが、軍艦同士では望むべくもない。
チベ改の後部デッキから曲面で構成されたジオン製らしい内火艇が出た。軍の艦艇に必ず積載されている内火艇は脱出艇や連絡艇として使われ、十人ほどが搭乗できる。艇内はお世辞にも広いとは言えないが、連絡艇としては充分だ。艦同士が接近するといっても、三○○メートルを超す矩躰では人が自由に往き来できる近さにはない。
内火艇は気密性の低さからノーマルスーツの着用が義務付けられている。搭乗する者たちは全員が同じノーマルスーツを着用していた。ジオンのノーマルスーツは伝統的に兵科の区別がない。士官用と兵卒用の区別があるがヘルメットの一部が違うだけであり、外形から兵科を見分けることはできなかった。
ジオン共和国軍の軍旗を掲げた内火艇が《アーガマ》の後部甲板へ進入体勢をとると、レーザーサーチャーを同調させた。ガイドビーコンが投射され、光通信による無線接続が行われる。ゆっくりと進入し静かに着底すると、甲板脇の格納庫に固定された。
あわただしくデッキハッチが閉じられた。甲板内が与圧されAIRと書かれたグリーンランプが点るのを確認して、内火艇から数人がでる。カーキ色のノーマルスーツの中に鈍色のノーマルスーツが一つ。それがエルンストであることは間違いない。
エルンストは銃状のもの――ワイヤーガンからワイヤーを射出した。再び引き金を引くと銃が自動的にワイヤーを巻き取り、一定のワイヤーが収納されると先端の磁力吸着が外れるようになっている。ワイヤーガンは実用化されたばかりのものであり、全てのノーマルスーツに標準装備という訳にはいかなかったが、艦内――特に甲板での移動に汎く利用されていた。無重力下では作用反作用の関係で、方向転換が難しい。戦闘で疲労したパイロットには必需品といえる。
士官と一目で分かるジオンのノーマルスーツは連邦軍には馴染みのない文化である。しかし、《アーガマ》の甲板員に戸惑いはない。エゥーゴではジオンは友軍なのである。
「ジオン共和国軍第一機動艦隊、月面派遣軍所属、チバーヌス艦長、エルンスト・ミューラ大佐である。貴艦の艦長に取り次ぎを願いたい」
エルンストがヘルメットを外すと束ねられていた豊かな金髪が流れ出でる。獅子と渾名されるエルンストらしい姿である。いかにも軍人らしい
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