第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第三節 過去 第四話 (通算第34話)
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堅さが、ジオン軍人の平均的気質でもある。一年戦争においてもジオン軍人の規律の厳しさと連邦軍人の頽落さが対照的であった。それ故にジオンは占領地を橋頭堡とできたのだ。国防と独立の志士揃いであったジオン軍と、喰い詰めた行き場のない者たちの受け皿となっていた連邦軍の差でもあった。
ただし、そんな連邦軍において比較的まともなのが宇宙軍である。ジオンを恨むこと骨髄の宇宙軍にあって、然程嫌ジオンではないのが元月面駐留軍――エゥーゴである。エゥーゴは自由闊達な寄り合い所帯であるが故に、この取り合わせが受け入れられているといえる。
「ご無沙汰しております、大佐。アーガマ所属のトーレス・ハミルトン中尉です。艦長より艦橋への案内を仰せつかっております。こちらへ」
些かぎこちない海軍式の敬礼を返し、トーレスがメインシャフトへの通路に案内する。トーレスの後にエルンストらが続いた。数少ないエルンストの顔見知りを出迎えに出すあたりに歓迎の意を感じると、随員らの雰囲気が和らいだようだった。
これはトーレスの――というよりもヘンケンの配慮である。実際、エゥーゴの連邦軍兵士より、ジオン共和国軍の方に強い警戒心があり、受け入れる側のエゥーゴの方にこそ警戒心が低かった。
それを知っているが故にヘンケンはエルンストに艦橋に来てもらわなければならなかった。エゥーゴのジオン歓迎ムードを副長以下に肌で感じてもらいたかったのだ。
「それにしても大分時間が掛かりましたね」
随員から緩んだ緊張が一気に消え去る。あからさまにトーレスを睨む者もあった。エルンストは一瞥で随員を黙らせると、トーレスを見向きもせずに答えた。
「ソロモン……いや、コンペイトウ宙域は今や紺碧に染まった……ということだ」
「やはりそうでしたか。艦長も、クワトロ大尉も同意見です。しかし、それほどまで……」
トーレスの表情が険しくなる。コンペイトウ鎮守府が敵にまわるとなると、彼我の戦力差は三倍以上になるからだ。艦隊動員力はそれ以上の差がある。エゥーゴには艦隊が少ない。《アーガマ》を旗艦としたアイリッシュ級四隻からなる新設のグラナダ艦隊と各サイド政府から派遣されたサラミス改級四隻と連邦宇宙軍のマゼラン改級一隻からなる月面駐留艦隊がその全てであった。それ故にブレックスはジオンの参戦を希んだのである。
「吉報がないわけではない」
エルンストは人をくった笑いを浮かべて後ろ向きのトーレスを視る。それは〈静かなる獅子〉と呼ばれた彼を知るものには初めて目にする光景だった。
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