風に消える慟哭
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麟が戻らなければ、あなたが黒麒麟を演じなければいけない……だからあなたは、自分を……乖離させていくしかない。
楽しいか、と聞いたのは他者と絆を繋ぐのが楽しいかという意味が大きく、秋斗に自分からそれを話して欲しかった。
彼がぼかしたのは真実の裏返し。本当の事を言わないのは自分への嘘を隠すため。朔夜の張った罠に秋斗は見事に引っかかった。
「ま、お前がそんなに落ち込む事じゃないさ。自分が選んだ道を進むと決めた時は、真っ直ぐ進む。それが男ってもんだ」
否、罠だと分かっていて踏み抜いていた。
くしゃり、と頭を撫でつけて、彼はからからと笑う。
朔夜は胸が苦しくなった。きゅう、と締め付けるその痛みを初めて経験した。
「ズルいです」
思ったまま、思考を重ねる事無く口から出した。
頭を撫でてくれる手は優しくて、彼が頼ってくれないのが哀しくて、朔夜はふるふると震えだした。
「……ごめんな。朔夜が気遣ってくれたから、少しばかり楽になった。ありがとう」
するりと、彼は本心を滑り込ませる。それが心配を向けてくれた朔夜に対しての礼儀だから。
――私にこの人は救えない。どれだけ認めても……この人はきっと……鳳雛から認められないと救われない。
それが口惜しくて、嬉しいはずの言葉を貰っても悲哀に心が沈んで行く。
だから、彼はズルい。そして“彼女”が……ズルいと思った。
――私がこの人に言ってはいけない。『あなたのままで、好きに生きて』なんて……月姉さまでさえ言わないのに、言えるわけ、無いっ
締め付ける胸がさらに痛んだ。
ああ、これが恋なのだと、彼女は思う。ただ誰かに幸せになって欲しい、それこそが恋なのだと。
彼女は経験が無かったが故に、そして狂信という毒に侵されている為に、恋を一足跳びしてしまっている事に気付かなかった。
落ち着くまで頭を撫でて貰って、幸せを感じてしまう自分に罪悪感を覚えながらも、朔夜はぴょんと秋斗の膝から降りた。
稟が座っていた椅子に腰を落ち着け、ゆっくりと二回、深呼吸をして、秋斗と目を合わせた。
朔夜にあるのは、凍えるような知性の光を灯した、月に吠える狼の視線。
「では、今の秋兄様とこれからのお話をしましょう。次の戦……“あなたなら何を求めますか”」
通常では有り得ない発言に驚く事無く、秋斗はにやりと口を引き裂いた。
先を知るモノと、先を読めるモノ。
二人の異端者が其処に仮初めの未来を描いていく。このどうしようもなく哀しい、乱世を変える為に。
†
肌寒い風が吹き抜ける。
もう既に宵の刻。いつまでも東屋にいるのはさすがに拙いと思い始めた頃であった。
「おうおう兄ちゃん。また幼女趣味が
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