風に消える慟哭
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の話をするつもりは?」
「ありません」
ぴしゃりと言いきって、朔夜は顔を上げた。彼を追い詰めて、それでも自分のわがままを話したから、心配が胸にこみ上げていた。
彼の事を聞けば聞くほどに、知れば知る程に異質さが際立つ。自分と同じく先見を持っているはずなのに、世界はくだらないガラクタじゃないと言い切るくせに……彼は自分をガラクタであるかのように扱う。黒麒麟も、秋斗も、誰かの心を理解していながら自分をゴミのように投げ捨てて突き進んで行く。
朔夜にとって、彼だけはガラクタでは無い。白黒の世界に初めて光が差されたのは、彼が歪めたからだ。だから彼女にとっては、彼こそが初めての大切なモノ。自分から求めた、世界の色を変えるたった一つの虹色の絵具。
――そんなに自分を捨てないで。
見上げる宵闇色の瞳は透き通り、頬は桜色に染まり、表情は……悩ましげに眉を寄せていた。
過去の自分を追いかけるとは、現在の自分を切り捨てて行く事。
他者からも、自分自身ですらも自己認識を否定する事は人格の分裂を生む。切り替わる術を身に着けたのはその自己防衛本能の顕現と言える。
このまま過ごせば自分が誰かも分からなくなり、いつしか精神的に歪みが起こるは必至であろう。自己を繋ぎ止めるはずの新たな絆を得る事すら、苦痛を伴っているのだから尚更。
目指す相手がただの他人であれば良かった。
皮肉な事に、彼の場合は自分自身。そうなれるという結果が出ている以上、追い求め、追い縋り、自分の想いと黒麒麟の想いを混ぜて行く。
如何に近しい絵の具を混ぜ合わせようとも、全く同じ色になど出来ないと知っていながら。
朔夜の瞳を見つめていると、急な胸の痛みに秋斗の目が細まる。すっと、瞳に昏い色が差し込まれた。
違う。
何が違う……とは分からなくとも、秋斗はそんな気分に苛まれた。
秋斗は知らない。
そうやって見上げた少女が居た事を。彼に戯れと言いながらも、わがままを話した後に不安と後悔を携えて“彼女”がそうした事を。
苦笑を一つ零した秋斗から、じっと黒が渦巻く瞳を見つめていた朔夜は……
「ていっ」
「ぅあっ」
デコピンを落とされた。せんべいは落とさなかったが思わず蹲り、朔夜はコスコスと額を片手で擦る。
「乱世は楽しくない。街で過ごすのは楽しい。曹操殿達と話をするのも楽しい。これでいいか?」
朔夜の背に言葉を落とす彼の声音は優しい。それは確かにその通りだろう、と朔夜も分かっている。本当に聞きたいのはそんな単純なモノでは無いのだ。
――知っています。分かってます。あなたは優しすぎるから、絆が増える事すら苦しいのでしょう? 鳳雛、月姉様、詠姉さんの三人に、過去の自分との接点を感じさせる事もお辛いのでしょう? そして黒麒
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