風に消える慟哭
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寸だけ跳ねた朔夜は、ふにゃりと秋斗に小さな背を預けた。
大きく、暖かい身体は安心を齎した。それまでの嫉妬渦巻く心が吹き飛ぶ程に。
家族ではこうはならない。他の誰でもこんな気持ちにはならない。何故なのか、何故なのか……考えても考えてもその意味が分からない。
恋、というのは知っていた。知識として、周りが誰かに向ける感情を見て、どんな状態がそうであるのか知っていた。
例えば月。
秋斗に向ける甘い視線を、朔夜は知っている。黒麒麟と秋斗を重ねながらも、元々の秋斗の性質に惹かれているからこそ、今もその想いを向けているのだと理解していた。
例えば詠。
話を聞いた後には必ず、大きなため息を落として遠い視線を向けているのを見ていた。今の秋斗がそれほど違わないのを理解していても、黒麒麟をこそ求めているのだと分かった。
二人の違いは何か。それは些細な、されども大きな違い。
月は導く事を望んでいて、詠は導かれる事を望んでいる。
自分はどちらであるのか、と考えても答えは出ない。
ただこの……いいようも無い安心感だけは、傍にあるだけでいいという想いは、どちらにも似ていて、どちらとも違うのだと理解していた。
そこで気付いた。やはりそこに現れた羨望の心に。
――やっぱり私は鳳雛が羨ましい。導かれる側でありながら導く側で、黒麒麟を人へと戻せた存在……私もそうなりたい。
眉根を寄せて思考に潜っていた。
ふと、朔夜は話そうと思っていた事が全て飛んでしまっている自分に気付いた。
時間がもったいなくて、何か話そうと思っても、彼が一番嫌がるだろう内容しか出て来なかった。だから彼女は、
「秋兄様は、楽しいですか?」
ソレをわざとぼかして突き出した。さながら、彼のように。
狙いは多岐に渡る。されども真っ直ぐに彼の心を貫ける必殺の一手。
秋斗が道化師であろうとしている事など、朔夜に見抜けぬはずは無く。彼女は大胆にして狡猾に本隊を抑えに行ったのだ。
「……相変わらずだなぁ、朔夜は」
のんびりと片手で朔夜の白髪を撫でながら、もう片方をせんべいに伸ばして手に取り、半分に割った。
乾いた音が弾け、すっと半分を朔夜に渡す。髪に掛かったら悪いから、と自分は食べないようで、皿の上に置きなおした。
カリッサクサク……と心地いい音が響く。朔夜は上品に両手で持って、零さないように食べ始めていた。
「楽しいさ」
短く、彼は朔夜の包囲を躱そうと足掻いた。正面突破という、最も単純な方法で。
「私に対しては、答えが足りてません」
即座に切り捨てた。正しく、真正面から。
その程度、あなたも分かっているはずだろう、と。これは秋斗が相対する事が最も苦手な覇王のやり方に近い。
「……他
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