風に消える慟哭
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もう一つは、その彼を救うために全てを賭けている雛里が、ただただ羨ましく感じた。自分も……雛里のように華琳の事を想えるのか、と。
目を瞑って、稟は苦笑を零した。自分に呆れを込めて。まだ、遅くは無いと決意を込めて。
「それでも考えてしまうのが軍師というモノですよ。……風が真名を許したというのも納得が行きました」
――そして星と友になれた理由も。
心の中で呟いた。今の彼に言っていい言葉では無いから。
何処か星に似ている、と感じた。
悪戯好きで、人の心に聡く、されども他人の心に土足で踏み込むような真似はしない。
飄々とした在り方も、挑発的に見える人の扱い方も、するりと本心を滑り込ませるやり方も……似て非なる、とは言い得て妙か。
ならばと、稟はこの短いやり取りで一つの決心をした。
またせんべいを手に取っておいしそうに砕き始めた彼を見やって、微笑みながら口を開いた。
「稟、と呼んでください、徐晃殿」
不意打ちな発言に一寸驚いた秋斗は、ぽろりとせんべいを落としかけて慌てて拾った。
一寸だけ苦しげに眉を寄せて、笑顔で言葉を紡ぎ始める。
「……なんでって聞くのは軍師様には野暮だよなぁ……俺の事も秋斗で。それに敬語は別にいらんぞ」
「いえいえ、秋斗殿とは違ってこれが私の自然体ですからお気になさらず」
冷やかに見えるも、暖かさが浮かぶ瞳で言い放った稟に、秋斗はぐっと言葉が詰まる。
後に降参、というように手を上げて、彼はまた嬉しそうに笑った。稟も、それにつられるように柔らかな笑顔を浮かべた。
†
大徳の風評というモノはいい効果だけを呼び寄せる、というわけでは無い。
名だたる天才達を以ってしても終わらない政務の理由の一つがその風評ゆえであった。
飢餓に喘ぐ難民達が押し寄せ、生きたいと縋り付く。商人が挙って押し掛けて、あれよあれよと管理の為に仕事が増える。
幸い、客分という影響力の薄い立場ゆえに、秋斗自体が豪族達の政治政略に巻き込まれる事はほぼ無いが、敵対勢力からの間者や細作が溢れるは必至であり、その対処にも力を使わねばならない。
その為、華琳が帰還してからのここ十数日は、警備隊も、軍師達も、将達も、皆が前以上に忙しく駆け回っているのだ。秋斗が全員と顔合わせをする暇が無いほどに。
ちなみに、季衣と流琉には里帰りをさせている。理由は親衛隊の軍務が暫らく無く、華琳自体も試してみたい事があるらしく仕事の合間を縫って兵の調練を自らしている事。そして次の戦が大規模な激戦になるは必須と考えて、まだ子供の彼女達であれども軍人としての心を親とじっくり話させる為である。
そんなこんなで忙しい中、一人の少女はやっと貰えた半日の休みに、彼と何を話そうかと心を
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