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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
幕間3 嗚呼、華の近衛衆兵鉄虎第五〇一大隊
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冬野曹長も笑う。
「……あの、失礼します、司令部からその、導術連絡が入っています」
 本部付導術士の上砂少尉がおずおずと報告するべく口を開いた。
「……」
 空気が一瞬にして凍りつく、上砂少尉の様子を見ればどのような内容か予想がつくものである。
「なんだ?」
「集成第三軍ハ近衛総軍担当戦域ノ猟兵隊ヲ突破シ後退ス、五○一大隊及び第五旅団ノ多撤退マデ独立混成第十四聯隊ハ後衛戦闘隊トシテ退路ノ確保ニ務メヨとの事です」
 一瞬、沈黙の帳がおりる。確かにほぼ全力で攻勢に出ているが、集成第三軍の傷も決して浅くはない、重砲兵隊は瓦解している故に攻勢といっても満足な火力支援はない。あくまで撤退の為の攻勢なのだからここで無駄に時間を使うよりは単独戦闘能力の高い第十四聯隊を一時的に後衛に回し、全力で叩くべきだという考えは妥当である――とうの第十四聯隊にとって以外は。
「兵達はどれほど休めた?」

「一刻程ですな。眠れてはいないでしょうが、離脱までは半刻かからないでしょうから戦闘自体はほとんどないかと。むしろ北方の騎兵どもの方が心配です」
と石井戦務幕僚が答える、近衛総軍との挟撃になるのだからそれも当然ではあるだろう。そしてその騎兵集団を相手にするのは龍州軍と近衛総軍となる筈だ。
「――まぁいいさ。この後は近衛と龍州軍が主役だ。最後に一働きしたら逃げるぞ、絶対にこれ以上巻き込まれてなるものか」


同日 午前第八刻 近衛総軍浸透発起線付近 近衛衆兵鉄虎第五○一大隊
大隊長 新城直衛少佐


 第五○一大隊の発起線への帰還を出迎えたのは近衛総軍の部隊ではなく、馬堂豊久中佐率いる独立混成第十四聯隊であった。
「出迎えご苦労様です、くらい言ってもいいぞ少佐。貴様のおかげで夜勤明けに残業しているのだからな」

「畏れ多くも華の第十四聯隊長殿にそのような事はとても申せませんな中佐殿」
顔を合わせた二人の北領帰りの将校は罵り合うように挨拶を交わした。
「はん!なにが華の第十四例隊長殿、だ。 随分と派手にやった貴様に云われたくないな
――まぁなんでもいいがな。俺達はこれで後退するぞ、近衛総軍は既に再編に入っている、後衛戦にあたるのは龍州軍と近衛だ。俺はこれでひとまず休み、後は頼むぞ」
 ふっと顔を緩め馬堂中佐が言った。
「はい、聯隊長殿。ですが、戦争と言うものは予定通りに行かない物です」
 新城はそれを嗜めるように穏やかな口調で答える。藤森が目をむいたのを見て、普段の勤務態度が目に浮かんだのか馬堂は苦笑を浮かべた。
「だろうな、だがここで傷口を広げるわけにもいかんだろうよ、そうにか傷を浅く、虎城まで逃げ切るしかない――そこからどう転ぶかは皇都の情勢次第だろうがね」

「面倒ですな、えぇ非常に面倒です。あぁ政治というのはなんとも度し
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