暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
幕間3 嗚呼、華の近衛衆兵鉄虎第五〇一大隊
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
取り残されているとはいえ南方戦域は<帝国>軍は、第三軍の攻勢により崩壊しかけている。
 せめてこちらからも一押しできれば――だが、それを為すための前衛部隊すら不足しており――誰も彼もが頭を抱えていたのである。

「導術によるとすでに撤退行動を開始したそうですが――ぬぅっ!?」
「第三軍に連絡を――む!?」
 砲声とはまた違う音が戦場に轟き、司令官と参謀長は同時に同じ方向へ顔を向ける。
その音の発生源はただそれだけで分かった。
なにしろ――彼らを抑え込んでいた擲射砲が置かれていた丘陵地帯から黒煙が立ち上っているのだから――
そしてそれを誰がやらかしたのかもまた考えるまでもないだろう、集成第三軍の先遣支隊は既に後退しているのだから。
「あ〜、その、なんだ。君の所の育預殿は実に逞しいようだな。うむ」
 神沢が苦笑いを浮かべて参謀長に云う。
「そのようですな――だがこれで撤退もかなり楽になりました。
第三軍がこちらの撤退を支援する為に森林沿いに北上し圧迫してくれます。
敵部隊が第三軍と交戦した際に二正面戦に持ち込めばよろしいかと
それにあの様子だともう間もなく新城少佐の部隊とも合流できるでしょう
あぁでも――」
 ――最後まで蚊帳の外だったか。
 益満昌紀は情けなさそうに溜息をつく、だが同時にこれからの事もまた彼の憂鬱をいや増す。
 ――だが、これからが我々にとっての本番か。これからの撤退戦が。
どうあがいても碌な目に遭わないだろう、なにしろこれが彼にとっての初の敗戦なのだから――



同日 午前第七刻半 集成第三軍 後方
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久


先遣支隊は無事に集成第三軍と合流し、解散していた。とはいっても形式上の物であって第十四聯隊も第十一大隊も後方支援隊を司令部直轄で預けていた為、後方にて合流後の補給と再編を終えてようやく行動をとれるようになったところであった。
「なにやってんだアイツら」
 馬堂豊久聯隊長は呆れたように立ち上る黒煙を見やる。
「擲射砲隊を攻撃し、砲を使えないように玉薬を使って爆破したのでしょう。
敵部隊の動揺も誘えますし、悪い手ではないかと」
 それに対して大辺首席幕僚は変わらず淡々と答える。
「違う、そうだけどそうじゃない」
 だが確かにこれで第三軍の反転突破もかなり楽になる、そうした意味では実に良い仕事をしたと言えるだろう。
「しかし派手ですな。あれではまさに英雄の凱旋だ。いやはや少しばかり羨ましく思います」
 副官の米山大尉が懐かしそうに笑う。
「おいおい、馬鹿らしいことを云うな、ま、確かにはた目から見てりゃ面白くはあるけどな。新城に聞かれたら殴られるぞ」
 豊久が笑みを深め。
「――ま、俺達は面倒から足ぬけできる事を祈りましょうや」
 
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ