第百七十二話 戦を振り返りその八
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「右大臣殿の正室帰蝶殿じゃったな」
「はい、我等が来る前に城に入り」
「岩村殿を助けていました」
「流石斎藤道三殿の娘じゃ」
それにだった、帰蝶は。
「尾張の蛟龍の妻じゃ」
「蛟龍の女房は蛟龍」
「そういうことでありますか」
「そうじゃ、そのことがわかった」
実にと言う秋山だった。
「見事じゃった」
「それではですな」
「この度の攻めは」
「御館様にはありのままお話する」
信玄に対して偽りも隠しごともしないというのだ、一切。
「全てはわしの責じゃ」
「城を陥とせなかったことは」
「そうだと言われますか」
「そうじゃ、しかし次の戦の時はな」
その時はというと。
「わしも負けぬ」
「この城を陥としますか」
「そうされますか」
「他の戦の場でもじゃ」
そこで織田家と戦う時もだというのだ、秋山は岩村城にだけこだわってはいなかった。彼の目もまたそれなりの見る視野を持っているのだ。
「負けぬ」
「では、ですな」
「今は」
「木曽路から甲斐に戻りますか」
「これより」
「皆退くぞ」
甲斐までというのだ。
「後詰はつける、すぐに退こうと」
「畏まりました、では」
「今から」
兵達も応えてだ、そのうえでだった。
秋山が率いる岩村城を攻めていた五千の兵も退いた、彼等の動きも速く瞬く間に木曽に入った。そうしてそこから甲斐を下る。
その彼等を見てだ、岩村城の者達はというと。
まずは生き残ったことに喜んだ、そしてその後でだった。
「よし、今じゃな」
「うむ、追うべきじゃな」
「追撃じゃ」
「それにかかろうぞ」
こう言うのだった、だがだった。
城を預かる帰蝶はだ。具足と陣羽織を着たままで彼等に言った。
「いえ、今追っても間に合いません」
「既にですか」
「そこまで逃げられたというのですか」
「そうです」
まさにその通りだというのだ。
「ですからここは」
「城に留まりですか」
「守りを固めるべきですか」
「そうです、下手に攻めてはなりません」
絶対にという口調だった。
「ではいいですね」
「わかりました、奥方様がそう仰るのなら」
「今は」
「それでは城の守りを固め」
「そのうえで、ですな」
「これまで以上に」
「はい、城の守りを固めて下さい」
是非にというのだった、そのうえで。
帰蝶は岩村殿にもだ、顔を向けてこう言った。
「それで宜しいでしょうか」
「はい、私にしましても」
帰蝶と同じく青い具足と陣羽織で身体を覆っている強い顔立ちの女も応えてきた。その顔は実に整っている。
「それで」
「宜しいですか」
「はい、それでは」
「この城のことは」
「これまで通りですね」
「殿からのお言葉です」
実際に信長から受け
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