A's編
第三十二話 後
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トンネルを抜けると雪国であった、という下りから始まる雪国という小説があるが、今回の場合を表現するならば、トンネルを抜けると闇だけが支配する空間だった、という表現するのが正しいのだろうか。リインフォースさんがいた空間が夜だとしたら、ここは闇だった。何もない暗いだけの空間。先ほど、リインフォースさんはここにアリシアちゃんがいると言っていたが、本当にこんな空間にアリシアちゃんがいるのだろうか。
きょろきょろと周囲を見渡してみても闇が広がるばかり。いや、一見すればそのように見えるだろう。だが、よくよく目を凝らしてみれば、まったく星々が瞬かない夜空にポツンと浮かぶ月のように金色が見えた。それは一度気付いてしまえば、あたかも黒い布の上にあるビーズのように目立っていた。
リインフォースさんの言葉を信じるならば、その色は間違いなく彼女のものであることは間違いないだろう。そして、何より心のどこかであの姿が僕の妹のものであることに気が付いていた。だから、僕は彼女の言葉と自分の直感を信じて歩みを進める。
まるで宙を歩いているような感覚。実際に歩いたことはないが、まるで水の上でも歩いているようなふわふわと危うい感覚が靴の裏から感じられる。本当にどうやって歩いているのかわからないが、僕は間違いなく彼女に近づいていた。
彼女の姿がだんだんとはっきりしてくる。最初は目立つ金髪のみが見えていたが、だんだんと彼女がここに来る前から着ていたであろう白い服―――聖祥大付属小の制服を着て、膝を抱えている彼女の姿がはっきりと見えるようになった。
彼女を見下ろせるような位置に近寄っても彼女はピクリとも反応しなかった。気付いていないはずがない。なぜなら、その距離は僕が手を伸ばせば、彼女に触れられるような距離なのだから。つまり、それは僕がその気にになれば、彼女に危害を加えられる距離ということである。その距離で誰が近づいているか確認しないということは人の反応としてありえないはずである。
「アリシアちゃん?」
それでも反応しない彼女に対して、僕は彼女の名前を口にしてみた。だが、それでも彼女が答えるような気配はない。ピクリとも反応しない。うずくまって、膝を抱えたままである。
まさか、と嫌な予感が頭をよぎるが、リインフォースさんの言葉から考えるにアリシアちゃんが最悪の状況になっているとは考えにくい。
ならば、なぜ、彼女は反応しないのだろうか? 眠っているのだろうか。そんな風に考えた僕は。彼女を起こすために手を伸ばす。
「アリシアちゃん、どうしたの?」
「お兄ちゃん、違うよ。彼女はアリシアじゃないよ」
手がアリシアちゃんの肩に触れる直前、まさかの否定が目の前の彼女からではなく、僕の背後から聞こえた。僕は、彼女の肩に触
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