A's編
第三十二話 前
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に従え、ということは頭では理解しているが、理性がそうたやすく納得できるわけではない。
よって、討伐という依頼のあとはこうして空を見上げてしまうのだ。特に夜空を。
「元の世界に帰りたいと思うのですか?」
突然の質問。だが、僕の心情をしっかりと表わしていて少しだけびっくりした。
そう、僕が星空を見上げるのは、故郷を偲んでだ。僕が召喚魔法で呼ばれたのは間違いない。世界が違う。そういうことは簡単だ。だが、それがどういった仕組か、までは誰も理解していない。たとえば、遠く離れた銀河の果てから呼ばれたのかもしれないし、次元の壁を越えた向こう側から呼ばれたのかもしれない。
それは誰も確認していない。ならば、この夜空に浮かぶ万ともいえる星の中に僕の故郷があってもおかしくはないだろう。
「うん」
隠しても無駄だとわかった僕は、正直にうなずいた。
彼女がそれで表情を変えたかどうかはわからない。彼女の身長は僕よりも高くて、彼女が隣に立った以上、僕は見上げなければ彼女の表情をうかがうことはできないのだから。
「それは、魔王を討伐した後でもそう思うと思いますか?」
「もちろん」
僕は間髪入れずに彼女の質問に答えた。だが、彼女は僕の返答には納得がいかないように小首をかしげるような仕草がうかがえた。
「どうしてですか? 魔王を討伐すれば、あなたは英雄です。これからの人生で何も考える必要がないほどの栄華が与えられるでしょう。望むものは与えられ、どんな女性との結婚も思いのまま、あなたが望めば酒池肉林とて夢ではありませんよ」
………この精霊は、僕が小学生ということを理解して言っているのだろうか?
その疑問はよそにおいておいても彼女が言うことは間違いではないだろう。魔王を倒せば、間違いなく英雄というものに列せられることになるだろうし、魔王を倒したほどの戦力を放し飼いにするわけもなく、手元に置いておこうとするだろう。ある種のジョーカーとして。その代わり、僕にはあらゆるものが与えられるだろう。ギブアンドテイクだ。リインフォースが言ったこともあながち間違いではなくなる。
僕の年齢では例外だとは思うが、それを理解したうえでも僕は言う。
「そんなものはいらない」
もしかしたらもっと欲深い人間であれば、その道を選んだかもしれない。だけど、僕はそこまで大それたものはいらない。人間、身の丈にあっただけの幸せがつかめればいい。
僕の身の丈にあった幸せというのは、高く望んだとしても職業は公務員あたりで、美人でなくてもいいから性格のいい奥さんと子どもがいるような困窮していない家庭を築く程度だろう。僕は僕自身が特別だとは思わない。だから、サッカー選手や芸能人という夢は持たない。
だか
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