A's編
第三十二話 前
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「……う、ううん」
半ば夢から覚めるように唸りながら、上半身を起こした。そのせいで今までかけられていた白い布が僕の胸から滑り落ちてお腹あたりで山になる。
「………ここ……は?」
頭をはっきりさせるために頭を左右に二、三度振ったあと、あたりを見渡して思わずつぶやいてしまった。
部屋……とはとても言えないだろう。天井には西洋のランプともいうべきものがぶら下がっており、布の天井が見える。僕の記憶の中で一番近いものといえば、テントだろう。しかし、その割には床は地面に直に敷かれたような布ではない。木の板が並んでいる。フローリングのようなものである。
「起きたのか?」
ぱさっ、と布が擦れるような音がして、透けた布の向こうからしか入ってこなかった光が直接入ってくる。太陽の直射日光のような光であり、誰かが扉を開けたのだろうと思った。
急に光を浴びてしまって、思わず目を細めた。やや目が慣れてきたとき、光の向こう側から誰かが覗き込んでいることに気付いた。生憎、姿は逆光のせいで見えないが、ほっそりとしたラインは女性のようにも見える。
「ずいぶん寝坊していたな。向こうの世界でもそうだったのか?」
ようやく目が慣れた僕の視界に映ったのは長身のピンク色と形容するべき髪をポニーテイルにした女性だった。やけに親しげに話してくる女性だったが、僕はそんな彼女にどんな反応をしていいのかわからなかった。
相手は僕のことを知っているようだが、僕は、彼女のことを――――知らない?
なぜか首をひねりたくなる。知らない、知らないはずだが……本当に? いや、知らない、知っている、知らない、知っている、知っている? 知っている。
―――ああ、そうだ、そうだ。
僕はどうやら寝ぼけていたようだ。今までずっと旅をしてきて、時にはともに隣で戦った女性だというのに忘れるなんて。
「今日は昨日の疲れがたまっていただけだと思いますよ」
僕にだって、原因はわからない。僕が起きる時間は大体みんなと同じぐらいなのだが、今日は最後まで惰眠をむさぼっていたようだった。昨日に特別何かをした記憶はないが、それでも疲れていたのだろう。そうでもなければ、この時間まで一人で寝ているということはないはずだ。
それをシグナムさんもわかっているのだろう。僕をからかっていたことを示すようにクスッと苦笑すると「そろそろ、朝食ができるから起きてこい」という言葉を残してカーテンのような布を閉じて、この場を離れて行った。
僕は、シグナムさんが離れたことを確認して、大きく伸びをして、着替えや靴など外に行く準備をして、この場所―――馬車の荷台から外へと飛び出した。
僕の身長より少し低い程度の高さを飛び降りる。トスン、
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