第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
22.Jury・Night:『Howler in the Dark』U
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闇だ。一面の闇だ、見渡す限り。光は、一切。在るのは闇と、不快な湿度。そして……噎せ返るような腐敗臭。何か小さなモノが這い回る、嫌いな者であれば堪えられない音。
正に下水道の只中、しかしそこは、有り得ない。有り得ないのだ、そんな。
「――――じゃ、じゃあ、着けますよ?」
「ああ、中程の縦向きのホイールを回したら着くから」
声、少女の。続き、金属の擦れる音と共に――――焔が灯る。嚆矢の、オイルタンクライターの火が。
橙色の輝きに、嚆矢と飾利が浮かび上がる。同時に、足元のゴキブリや鼠といった生き物が、負の光走性により逃げていく。『ふひゃあ』と飾利が情けない声を上げて、ライターを持ったまま嚆矢の背中で竦み上がった。
汚水の淀みに浮かぶ黴の塊、得体の知れない鍾乳石。おおよそ人には最悪の環境が、其処には在る。
「はうぅ……あの、先輩……その、重くないですか……?」
「ん〜? いやいや、女の子に下水なんて歩かせらんないし、四十キロくらいなら部活の勧誘で背負ってるからへーきへーき」
ハンカチ越しに盛大に溜め息を吐き、彼女は汚水を物ともせずにザブザブと歩く嚆矢を見やる。
成る程、学園名物の心臓破りの門前を四十キロの重りを付けてロードワークするという莫迦な新入生勧誘ショーで培った足腰が、こんな時に役に立っていた。
「でも、よかった……もうダメかと思いましたから……嚆矢先輩に会えて、なんだか安心しました」
「そりゃあ、どうも。こんな奴でも役に立てて、嬉しいよ」
そんな風に、背中で安堵してくれるのならば――――『制空権域』で、最小の被害……『右足の捻挫』くらいで済ませた甲斐があると言うもの。
――ま、問題は……此処が本当に、只の下水道かって事かな。
暗部での経験上、こう言う時はどうにも百分の一が重なるもんだ。
そんな考えを臆面にも出さず、にこりと微笑みを右側から覗く少女の顔を向ける。それを受けて、少し前まで只々、闇を恐れ、怯えていた少女は健気に微笑みを返してくれる。
「あ、先輩知ってますか、『下水道には、買えなくなって捨てられた白い鰐がいる』って都市伝説……もし本当にいたら、食べられちゃいますね」
「そうなんだ? 俺が知ってるのは、油臭い白鰐ちゃん達だけだけど。何にしても、飾利ちゃんが都市伝説に興味あるなんて意外だな」
「違いますよぅ、わたしじゃなくて、佐天さんが……」
聞き出せた情報は、『突然、化け物に追われた』、『何故だか分からない』という事だけ。それ以上は、彼女の精神衛生を考えて不問に。否――――それだけで、十分だ。
――良く、
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