第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
22.Jury・Night:『Howler in the Dark』U
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ですからねぇ!」
哄笑を浮かべていた。左手の一冊、突き出して。メリメリと、裂け始めた口蓋に。
『ひっ』とまたも、背中の少女が竦み上がる。それに、目の前の男を嚆矢は睨む。
「さぁ、『ドール讃歌』よ……疾く来たれ!」
気でも触れたかのように震える彼女、然もありなん、先程までとは空気が違う。
見るに耐えない。そう思うより早く、飾利の視界を塞いでいた。自身は、目の前の冒涜の羽化から目を背けずに。
「飢える――――飢える、飢える、飢える!」
その時、臨界を越えて。蛹の殻を破り捨てるように、人の骸殻が脱ぎ捨てられる。
嗚呼、なんたる不浄。なんたる汚穢。救いはない、救いはない。『主よ、何処に行かれたのですか』?
『飢える――――星を喰らうものよ!』
現れたもの。余りの異形に、嚆矢ですら膝が笑う。前の異形など、孵化したコレに競べれば可愛いものだ。自然、足が笑う。正気が霞む。瘴気に霞む。耐えられたのは、元から世界が地獄だと知っていたがために。
蠢き這いずる、山のように大きな蚯蚓。青白い粘液に塗れ、のたうちながら。見ようと目を凝らせば透き通り、見たくないと目を背ければ色濃く。それは、幻の如き現実として、其処に顕在する。
下水道を覆わんほどに巨大な口蓋を持つ、その異形は、表情など形作れる筈もないのに。
『汝――――地を穿つ魔!』
明確に、明白に。目の前の命二つを喰らい啜る、嗜虐に満ちた笑顔を浮かべていた。
………………
…………
……
『禍福は糾える縄の如し』等とは、幸福しか知らない者の戯言だと。随分と昔から知ってはいたが、此処までとは。
在りもしない事を、願ってしまう。目の前に蠢く、精神を蝕む異形を臨んで。そう――――
――こう、都合よく……無敵のヒーローでも助けに来てくンねェかなァ、いや、割とガチでさ。
そんな、不甲斐ない事を思う。だが、そんな事はない。現実では、有り得ない。
無辜のピンチに颯爽と現れ、悪を挫いて誰かを助けるスーパーヒーロー。あれは、創作だからこそ。助けなど、予定調和でなければ来はしない。
だからこそ、屈してはならない膝が。だからこそ、離してはならない手が。だからこそ、挫けてはいけない思いがある。
「……先輩……っ」
「――――大丈夫……」
この手は、離してはいけない。そうだ、もう、二度と――――
『■■■……』
「過去にも、言ったけど……さッ」
覚えはない。なのに、知っている。その絶望、その悔恨。合わない歯の根を、無理矢理に喰い縛って
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