第十話 本音と建前と
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聞こえて、動いている者の姿は肉眼では捉え切れない。
人でなし同士の戦いは、常人には捉える事ができない。
上戸は、常人離れした瀧の動きにキッチリとついていく。それもそのはず、上戸の能力とは、この世の様々な能力の“模倣”。どんな能力でも、知ってさえいればそのまま“模倣”できる。瀧の呪禁道も、そっくりそのまま“模倣”できるのだから堪らない。呪禁道よりも、瀧の単純な身体的能力の高さの方が上戸にとっては脅威だった。瀧の動きが上戸の想像を上回ってしまうと、“知らないものは模倣できない”からだ。だから上戸は徳富を先にぶつけて、瀧に本気を出させた。瀧の本気を、まず知っておかねばならなかったからだ。
「また速くなった!戦いながら成長していく、あなた、やっぱり戦う為に生まれてきたような男ね!」
一瞬の気の緩みが命取りになる、そういう戦いをしてるのに関わらず、上戸の口は減らず、語り口にはいつも通りの余裕が透けて見える。
「うるさい!戦いを楽しみやがって!」
「楽しいだなんて!違うわ、嬉しいのよ!自分の才能!自分の能力!それを存分に引き出せる事に喜びを感じるのは、当たり前じゃないかしら!?そういうあなたも!本当に“殺し”が不本意なら、ここまで戦士として大成したかしらね!?あなた自身、戦いが自分の一部!戦場が自分の居場所!そう思ってるんじゃないの!?そして、頭で思ってなくても、体は、あなたの能力は、素質は正直ね!」
上戸の細面には、笑みが浮かんでいた。
上品な厚い唇が、今は少しだけ歪んでいた。
「正直に言いなさい!瀧くん!あなた、要するにユイちゃんを生み出した私達東機関が憎いだけなんでしょう!?私達が生み出さなければ、死んでいく事も無かった!つまりは、あなたも奪われずに済んだという事よ!生まれて初めて、心を寄せた女をねェ!」
「黙れ!問題を矮小化するな!確かにユイを失った事がきっかけではある!だが、それはただきっかけだ!貴様らの人を人と思わない外道な考え、汚れ仕事を一つ所に集めて他所では生きられない連中に押し付ける理不尽さは、例え俺個人を非難した所で消えて無くなる訳じゃないぞ!」
「矮小化ですって!?人は皆矮小なのよ、分からないの!?思想を語り、理想を語る、その根っこにはただ個人の人生がある!もっと国はこうあるべきだとか、人はこうあるべきだとか!そんなモノの根っこにはただ、個人の経験、個人の感想がある!人は自分1人以上の人生を生きられはしないのよ!この国をマシにする?一度滅ぼして浄化する?そんな立派な御託の根っこにはただ、あなた個人の喪失感!あなた個人の恨み、怒り!」
バシッ!!
呪いを帯びた日本刀とサーベルが一層激しくぶつかり合い、その一撃が堪えたのか、瀧と上戸は一旦距離を置いて、剣を構えたまま対峙した。
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