第十話 本音と建前と
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遠沢は、悲しそうだった。
表情が殆どないはずなのに、何故かそれははっきりと分かった。
「……だからあなたには、見せたくなかった」
遠沢は長岡に背を向けて歩き始める。
長岡はしばらく立てなかった。
「置いて行きますよ」
遠沢に言われて、長岡はようやく腰を上げる。化け物だろうが、何だろうが。
ここに味方は遠沢しか居なかった。
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「ねぇ、どうしたん浮かない顔して」
そう“ユイ”が話しかけてきた時、瀧は戸惑った。東機関でずっと過ごしていると、幼い女の声など、滅多に聞く機会もない。殺伐とした人でなしの巣窟に、余りにも相応しくない。
「そっちやないって。こっちこっち。」
瀧がキョロキョロと見回すが、戦いの日々に研ぎ澄まされた視覚をもってしても、その声の主を捉える事はできない。声はなおも、頭の中に響いてくる。
「えへへへ、分からんやろー?」
無邪気に自分をおちょくってくる声に、瀧は苛立った。苛立ったが、しかし、どこか楽しかった。ガキと戯れる事なんて、殆ど無かったから。
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「また今日も人を殺してきたん?」
「あぁ、たくさんな」
「何も思わんのん?」
「仕事だよ。」
気がついたら瀧は、東機関の本部に居る時は、頭の中の声と会話するのが日常になっていた。
最初は、新手の精神干渉か何かかと思い、東機関の医療部で検査も再三したが、何も異常は見られず、瀧はこの現象を気にせず楽しむようになっていた。
「ねぇ、人殺すのって楽しいん?」
「楽しい訳あるか。ヒヤヒヤしてるよ、相手も俺を殺す気だから。」
「へー、弱いんだ」
「バカ、弱いんじゃない。俺は毎度毎度圧倒的だ。それでも……恐怖と憎悪に駆られた人間の顔って奴は見ると怖いものなんだ」
「へー、ユイにはよく分かんないやー」
ユイは無邪気だった。
世間の事をさっぱり知らなかった。
しかし、世の事を“知りすぎた”ような連中しか居ないような東機関の中で生きていく瀧にとってはその無知こそがかけがえの無いものだった。
“普通の人間”との会話は、こんなものなのかな。
瀧はそう思った。
「瀧くん。さっきから、何をニヤニヤしてるの?」
「え、あ、いや……少し、思い出し笑いをな」
怪訝な顔をする上戸を、瀧は誤魔化した。
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「今日は台風やのに、また出動やったん?」
「この機に、中共の工作部隊が上陸してきていたからな。人でなしに休みは無いよ。普通の人が働けない時、普通の人間ができない事をするのが、俺たちの役目だ。」
「……それって、良いように使われてるだけとちゃうんー?」
「まぁ、そう
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