第十話 本音と建前と
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いような装備で、長岡と遠沢を殺しにかかってきた。辻など、恐らく雷電改の機首のバルカンのスペアを持ち出してきている。そんなもんを自在に扱えるとは、やはりこいつらは人間ではない。
撃つしかない、と覚悟を決めて拳銃を握りしめていたが、覚悟があろうとなかろうと長岡には関係がなかった。撃ち返す余裕なんかない。遠沢に半分引きずられるようにして何とか回避するので精一杯だ。
「お、おい!まずいぞ!こっちは袋小路だ!」
「!?」
攻撃を避けて退却を繰り返しているうち、長岡は自分達の退路がもうない事に気づいた。
艦内構造に関しては長岡の方が遠沢より詳しい。2人は自ら追い込まれてしまった。
2人の装備が拳銃程度で貧弱な事を分かっている辻達は、物陰に隠れる事もなく、正面から突撃してくる。
「これで終いヨォ!」
辻の喝采と共に、いくつもの銃口が向けられる。
反撃の術もない。
長岡は体の力が抜けた。
やはり機関室で覚悟を決めて、エンジンを吹っ飛ばせば良かったんだ。人生最後の瞬間においても、情けない後悔が浮かんでくる自分に苦笑いが出た。
次の瞬間、視界が一瞬で暗くなった。
「…………あ?」
頭でも撃たれたのかと思ったが、一向に体の感覚がなくならない。両手で自分の体をまさぐっても、血一つついていない。ここがあの世かと、周囲に手を伸ばすと、硬い感触があった。パイプの浮き出た、艦内の壁だ。あの世ではないらしい。
「どうしちまったんだ、こりゃ?」
すると、光がその闇に差し込んだ。
開けた視界に、口をあんぐり開けた間抜けな辻達の姿があった。
頭上に、何か膜のようなものがヒラヒラ波打っていた。この膜に包まれて、自分は助かったらしい。
それを長岡が知覚した時には、その膜は姿を変え、無数の触手となって辻達に殺到した。目にも止まらぬ速さで銃を持ったその手に絡みつき、それを引きちぎった。今まで見た事も無い量の血が弾け飛び、長岡にも血の赤がかかる。悲鳴を上げてのたうつ辻らに対して触手は手を緩める事もなく襲いかかり、引き裂かれた彼らは一瞬にして「肉の塊」へと姿を変えた。
突然の出来事に、長岡は腰が抜けて立てない。
化物。この触手、この物体はそう呼ぶに相応しい。
「……遠沢?」
このタイミングでようやく、長岡は遠沢の姿が無い事に気づいた。床を見ると、血の海と化した床に、血の赤に浸った遠沢の青の繋ぎだけがあった。
触手が、その繋ぎの中に収まっていく。
不定形の物体が変形に変形を重ね、そこに遠沢が現れた。
長岡は言葉も出なかった。
拳銃で撃たれた程度では死なない、化物みたいな連中を相手に戦っていたつもりだが
共に戦う仲間の遠沢が、本物の化物だった。
「…そんな顔、しないで下さい」
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