第百七十二話 戦を振り返りその三
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家康の顔になった飛騨者達は口々に叫んだ、その叫びはというと。
「我こそが徳川家康ぞ!」
「いや、我がだ!」
「我が徳川家康ぞ!」
「さあ、わしの首を取らん者はかかって参られよ!」
「いざ勝負!」
こう叫び武田の軍勢の中に飛び込む、その彼等を見てだった。
信玄は眉を顰めさせてだ、こう言った。
「これはまずいのう」
「はい、おそらく本物はあれです」
信玄の傍らにいる嫡男の義信が必死に浜松の方に逃れていく一騎を指差しながら父に対して話した。
「あの兜を見ますと」
「そうじゃな、陣羽織といいな」
「あれが徳川家康でしょう」
「少し見ればわかる、しかしじゃ」
「ああして銘々が叫び顔も同じでは」
「うむ、迷う」
戦の場はとかく頭に血が上り周りが見えなくなりやすい。特に足軽ともなると死地にいて槍を振るうだけあって余計にだ。
だからだ、ここで飛騨者達がそれぞれ家康と名乗ってはなのだ。
「これはまずいのう」
「ではそれがしが一軍を率いて」
義信は自ら名乗り出た。
「あの者達を成敗してきましょう」
「いや、御主はここでわしと共に徳川の軍勢を倒せ」
信玄は嫡男の言葉をここで止めた。
「後詰にいる本多忠勝も強い、四天王も踏ん張っておる」
「だからあの者達には向かわずに」
「より大きな相手を目指せ、よいな」
「わかりました、それでは」
義信は父の言葉に頷いた、そしてだった。信玄は旗本の一人にこう言った。
「幸村に伝えよ、あの者達は任せたとな」
「はっ、それでは」
彼等にも幸村が向かうことになった、幸村は丁度この時井伊と激しい一騎打ちを繰り広げていた。彼は二本の槍で井伊を炎の如く攻めていた。
井伊はその猛攻を右手の剣と左手の槍で防ぎつつ何とか隙を見て彼も攻める、そうして何とか防戦ではあるが。
それでも幸村を止めていた、それで言うのだった。
「ここは通さぬ」
「井伊殿であられるな」
「左様、我が名は井伊直政」
こう自ら名乗るのだった。
「徳川の家臣が一人ぞ」
「そうであるな、その井伊殿と槍を交えること光栄に思う」
確かな笑みを浮かべてだ、幸村は井伊に述べた。
「しかしここは貴殿を倒しそのうえで」
「殿の御首をというのか」
「左様、家康殿の首は貰い受ける」
幸村が、というのだ。
「それがしがな」
「殿の御首が欲しければそれがしを倒してからにしてもらおう」
井伊はその幸村に対して告げた。
「そうしたければな」
「それがしをここで止めるか」
「その為にここにいるのだ」
井伊も負けていない、幸村に対して果敢に挑み続ける。しかしその幸村の後ろから彼等が名乗りを挙げた。
「殿、それではです」
「家康殿の首は我等が挙げます」
「この真田十勇士が」
「そうし
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