第百七十二話 戦を振り返りその一
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第百七十二話 戦を振り返り
信玄は信長との戦を終えて信濃から甲斐への帰路についていた、信濃の道を進む時には既にだった。
「織田家はか」
「はい、北陸に向かっております」
「あちらに」
「今度は上杉との戦じゃな」
二十四将からの報を聞きながらだ、信玄は馬上において言った。
「そちらじゃな」
「はい、どうやら」
「そちらかと」
「では我等は今は甲斐に帰り」
そしてだとだ、また言う信玄だった。
「暫し休もうぞ」
「そしてですか」
「それからですか」
「うむ、兵を進めてじゃ」
そしてだというのだ。
「その時こそ織田家と雌雄を決する」
「ではですな」
「その時に我等の天下を手に入れますか」
「そうする。それでじゃが」
今度は信玄から家臣達に問うた。
「公方様じゃが」
「あの方ですか」
「あの方の文ですな」
「まあ使わせてもらってるがな」
それでもだというのだ。
「思えば公方様は右大臣を頼って将軍になったな」
「そしてその織田信長とですな」
「今は」
「うむ、ああして一方的に憎んでおる」
このことから言う信玄だった。
「それではな」
「我等もですな」
「何時そうなるかわかりませぬな」
「公方様を奉じても」
「憎まれるやも知れませぬな」
「そうなっては困る」
それでだというのだ。
「わしも考えておこう」
「公方様のことは」
「そのことは」
「さもなければ背中から刺される」
そうされるからだというのだ。
「そうなれば天下が乱れる」
「では公方様にどう静かにしてもらえるか」
「そのことも考えておきますか」
「織田信長の政は正しい」
信玄はこのことでは信長を認めていた。
「善政であり天下を泰平にするものじゃ」
「そして幕府はですな」
「最早」
「うむ、神輿じゃ」
それに過ぎなくなっているというのだ、今の幕府は。
「最早都の一角にいるだけじゃ」
「天下を治めることはですな」
「最早到底」
「出来はせぬ」
信玄はこう言い切った。
「何もな」
「幕臣も殆どいませぬし」
「兵もまた」
「おらぬ」
そうした状況では、というのだ。
「それではな」
「幕府はただの飾りですか」
「それでしかありませぬか」
「銭もない」
その力もなくなっているというのだ。
「兵を呼んでも集まらぬわ」
「そこまで力をなくしているからですな」
「もう幕府は」
「織田家に。実際に天下を治める者に頼るしかないのじゃ」
それが今の幕府のあり方だというのだ。
「それしかないというのに」
「しかし公方様は」
「あの方は」
「ああして。無駄に文を書かれ大名を動かし天下を乱してはな」
到底、というのだ。
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