トワノクウ
第十二夜 ゆきはつ三叉路(四)
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再び奥座敷に戻されたくうは、動く気力をことごとくなくし、膝を抱えて畳に横になっていた。
能動的な活動を拒否した眼球が、目の前の襖の模様をぼんやりと追っていた。
(ほら見なさい。やっぱり上手く行かなかったじゃないの。浅はかな考えで身の程をわきまえずに状況に反抗するからそうなるのよ。現実はゲームみたいにご都合主義じゃないのだから)
――自己嫌悪をやりすぎちゃいけないよ。かつて、くうの家庭教師はそう注意した。
自己嫌悪は、やっている間はとても気持ちいいけれど、ちっとも有意義ではない。ただ自分がおかしな快感に浸って楽になっているだけだから、くうちゃんはあんまりしないでね――と。
恩師の金言を思い出してなお、くうは己の行動を愚行と罵ることをやめられなかった。そう、彼の言ったとおり、そうするのが気持ちいいから。
(そもそも危険だと梵天さんにも忠告されていたのに残って身の潔白を証明しようとするなんてバカなのしぬの? 結果が伴わないんじゃどんな決意も子供の綺麗事よ。あそこで判断を誤ったんだから貴方は本当にどうしようもない人間だわ、篠ノ女空。――)
心中の自己嫌悪が尽きた。くうはしばらく頭をからっぽにして襖に描かれた鳥を数えていた。
鳥……羽根……翼。白い、翼。
(…………私、妖になってしまったの?)
ようやく先の留保事項を身に詰まされた問題として考える気になった。
背中から生えた白い翼。天使のようでも、このあまつきに天使は存在しない。あるのは、人と妖、この二者だけ。人に翼はない。ならば、くうは妖だろうか?
(変わってしまったようには感じないのに。一体いつから?)
心当たりはあまつきに来た瞬間しかない。髪の脱色はショックのせいだと放置していたが、これも変質の一環と仮定すると、その瞬間しか思い当たる節がない。
でも、なぜ? なぜ異世界に来ただけで妖になるのか、なぜ自分なのか。
くうは右手を覆う手ぬぐいを解き、手の平の青い刻印を眺めた。
その視線の先、叩きつける勢いで襖が開いた。慌てて起きる。
「薫ちゃん……?」
薫はほつれた髪と、藤袴の花飾りを揺らしながら、危うい足取りで部屋に足を踏み入れる。
「どうしたの? 何かまた新しく決まったことでもあるの?」
言いながら薫を見ると、彼女の右腕からは血が滴り、淡く明滅する紫の刻印を濡らしていた。
何であの妖と同じとこ怪我してるの、と尋ねるより速く、薫はくうの胸倉を掴み上げた。薫の腕は、あの凍鉄の獣のように黒光りする冷たい鋼に覆われていた。
「……妖、なんだ……だから大丈夫……悪いことじゃない……あたし、何もいけないこと、してない……いつもの仕事と、同じ……」
正体を失くしてぶつぶつ
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