トワノクウ
第十二夜 ゆきはつ三叉路(三)
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「おじゃまですか?」
「危ないぞ」
「へっちゃらです」
むしろこのためにわざわざ外に出てきたのだ。
活躍は華々しければ華々しいほど、余人のくうへの態度が改まり、理不尽な処遇が緩和される余地が増える。だから、活躍させてほしい。潤と共にこの妖を撃退させてほしい。
「――いや、やっぱりだめだ」
「えー!?」
不満にいきり立ったくうを、潤は背中に守るようにしてピストルを構えた。横顔は笑むことなどない、真剣そのもの。
「俺のそばから離れないで」
遠く感じていた青年が、その瞬間、くうが好きだった中原潤に戻った。
潤はピストルを妖に向けて連射した。
まずは妖の前脚の付け根、続いて前屈みに倒れたところに後足の付け根。額、起き上がろうとすれば腹部。
何十発も撃ってもなぜか再装填をせず、容赦なく弾丸を妖に叩きこんでいく。
撃たれるたびに妖の体から凍った黒鉄が氷のように飛び散り、妖は絶叫を上げた。
(やだ。聴いてるだけで苦しい)
生き物の痛みの声を、生理的な面が拒絶している。数分前まで、自身がこの妖を倒すのだと意気込んだ気持ちはとうに萎えてしまっていた。くうが甘かった。くうには、妖と、命と戦い合うという覚悟が、足りなかった。
「これで動けないだろう。もう大丈夫だ、篠ノ女」
潤がふり返りがてら、くうの肩に手を置いた。あたたかく、くすぐったく、鉄を噛んだようにほろ苦い。
「潤く…… !」
潤の背中、くうの正面、倒れ伏した妖が爆発するように復活し、こちらに向かってきていた。
死に体の妖は走るごとに氷の屑を撒き散らす。巫女達の何人かが慌てて矢を射るが止まらない。潤がようやくふり返るが、あまりに遅すぎた。
(潤君が食われる)
次の瞬間、くうの肉体はまったく己の感情にのみ忠実に行動した。常人離れした足捌きで潤と妖の巨体の間に割って入り、拾った薙刀を妖の口に縦に突っ込むことでつっかえ棒にしたのだ。
(妖でも痛そうにされるのはいや。それでも、潤君のほうがもっと大事)
凍鉄の巨体が異物にもがく。くうは痛痒を押さえ、叫び放つ。
「潤君、今です!」
潤のピストルから放たれた弾丸が、妖の体の中心を貫いた。
妖は凍鉄を撒き散らし、ずしゃああん! と倒れた。起き上がる様子はない。
妖は凍った黒鉄となって粉々に砕け散り、四散した黒鉄も少しずつ空気に薄れて霧散した。
くうと潤は二人して盛大な溜息をついた。
「助かった。篠ノ女がいなかったらどうなってたか……ありがとう」
瞳はまだ臨戦態勢を解かず、潤は口の端を上げる。
「いいえ。うっかり出てきてしまいましたが、お役に立てたなら幸いです。ほっとけませんでしたか
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