トワノクウ
第十二夜 ゆきはつ三叉路(二)
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
「――利用された者と利用した者、かな」
梵天が去ってから、くうは当面の方針を固めた。
自分が混じり者であることはしようがない。朽葉と同じなのだからそう恥じることでもない。天座に言われて銀朱を狙って現れたという冤罪だけ晴らせれば、それで放免されるだろう。それから梵天を訪ねればいい。
(考えるほど上手く運ぶとは思わない。それでもやらなきゃ。梵天さんは自分を危険にさらしてまで敵地にくうを迎えにきてくれたんだから)
自分自身のためでない理由はそれだけで活力になる。緊張に全身を強張らせながらも、ぐっと小さな両拳を握り固めたその時。
部屋全体が大きく揺れた。
「地震!?」
掴まる場所も隠れる場所もないため、とにかくくうは畳に伏せて頭を抱えた。がががが、と襖が外れそうな音、腹の底まで震わす地揺れ。何もかも初体験だった。
揺れが終わる。同時に伏せたくうの鼻先に襖が一枚、外れて倒れた。あと10センチずれていたら……くうはぞーっとした。
はたと、襖が外れて部屋から出られるようになっていることに気づく。
さらに耳を澄ますと、喧騒が聴こえた。この奇天烈な構造の通路でも、音だけは実際の距離のままで聴こえるらしい。
喧騒の中に拾えた単語に、妖、戦う、退治、というものがあった。
分かることは一つ――外は緊急事態だ。
(どうしよう? ここにいたらいざってときに逃げそびれるかもしれない。外の薫ちゃんと潤君だって危ない目に遭ってるかもしれない。行ったら助けになれるかな。妖混じりだし、羽根あるし、ひょっとしたら私が何とかできないかな)
くうの思考はある臨界を突破した瞬間――冷めた。
(ばかみたい。どんなに言い訳を弄したって、私が外に出たいと思っている事実に変わりはないのに)
外に出たい。事態に関わりたい。叶うなら事態を解決してみせたい。劇的な解決を坂守神社の人々に見せれば、くうへの心証が良い方向に転じるかもしれないからだ。
(無罪を勝ち取るためと思って我慢してきたけど、いい加減うんざりよ)
篠ノ女空がその他大勢に過ぎぬ人間たちから不当に扱われるなどあってはならない。
心の暗い野に根を下ろしたそれは、確かな自尊心だった。
くうは襖を開けて、続きの間を次々と抜けてゆく。梵天から教えられた順路を辿っていけば外に出られるから、足取りに迷いはない。
(この私を閉じ込めたこと、後悔させてあげるわ)
――だからいやだったのに。奥に引っ込んだくうが泣き出したのが分かったが、くうは歩みを止めなかった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ