トワノクウ
第十二夜 ゆきはつ三叉路(二)
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「しかしほんと君ってタイミングが悪いよね。俺が去った直後に、その身に宿したモノが覚醒するんだから。よほど怖い目にでも遭った?」
頭巾をめくって現れたのは、他でもない梵天の秀麗なおもてだった。
驚いて大声を上げかけたくうの口を梵天の手が塞ぐ。
「言っとくが変装じゃないよ。この人間の意識を借りた。今の俺には話すくらいしかできないから、君にはようく言うことを聞いて動いてもらうよ」
くうは無言で首を縦に振った。梵天の手が外れて質問が許される。
「貴方はくうに何をさせたいんですか?」
結界がある神社にどう侵入したか。なぜ危険を冒して敵地に乗り込んだのか。どうしてくうを助けたがるのか。それらの解を抱き合わせで貰える質問をようようひねり出せた。
梵天はくうの問い方に満足してか、笑みを深める。
「君に宿った妖は特別製だ。君自身がほぼその妖に染まってしまっていると言っていい。限りなく妖に近い混じり者だね。俺はその妖が欲しい。ひいてはその妖の力を行使する君という人間が欲しい。理解できるかい?」
「な、なんとか」
道理で潤の前で言わないはずだ。くうは本当に妖に属する存在になってしまっていたのだ。
もちろん求められて悪い気はしない。天座が欲しがるような混じり者だと銀朱に知れたら扱いがどう変わるか不安なだけで。
(現状確定。おそらく弁明がむずかしい事態。ベースが人間でも妖が混じっているなら神社関係者にとって危険因子であることに変わりはない)
今は篠ノ女空が人間から逸脱した生物になってしまったことへの嘆きや本能的な恐怖を一旦忘れ、対策を講じなければ、本気で人権を無視した扱いを受けかねない。
「くうはどうすればいいんでしょう? 助け出してくださったり、します?」
一抹の期待をこめて上目遣いに、梵天に意向を問う。
「さっきも言ったようにこの状態の俺は話すくらいしかできない。俺の言うとおりに動いて自力で脱出してくれ」
くうの頭を疑問がもたげる。脱走。それは最善の道だろうか?
梵天の手助けで牢破りをすれば、くうが天座の関係者と公言するも同然。なれば、無実を証明する機会を自ら潰すことになりはしないか。「銀朱を狙った刺客」だの「彼岸人になりすました」だの、身に覚えのない罪状で非難されるのは辛いが、この辛い場しか潔白を示す場がないのも事実だ。
混じり者≠ネる存在となり、このまま坂守神社に身を置けば惨い仕打ちが待っている可能性が高いとしても、悪意ある罪人≠ナあると思われたままは、くうの自尊心が許さない。
「――いけません」
「なに?」
「くうは行けません。ここで逃げ出すわけにはいきません。逃げたら、みんながくうを悪人だと思い込んでしまいます。やましいとこなんてない
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ