志乃「手をどかして」
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慢を持続させてくれている。つまり、この空間こそ、このシーズンにおけるオアシスなのだと勝手に考えている。これを最近志乃に力説したところ、「バカじゃん死ねば」と一掃されたのは内緒だ。
それに風呂っていうのは、代々身体を存分に休めてくれる憩いの場だ。どれだけ耳が課題曲のメロディーで浸食されていようが、風呂の中では心地良いBGMとなって勝手に流れ続けている。俺は風呂が大好きだ。愛しているといっても過言では無い。
だが、そんな俺の幸せのひと時を邪魔する奴は、週に三回ぐらい現れる。そして今日はまさにそれが起きてしまった。
「兄貴、いつまで風呂入ってんの。もう三〇分経つんだけど」
なんて間の悪い妹だろうか。今日という今日はゆっくり風呂を楽しみたかったのに。でも言い訳をするとこちらが立場的に危うくなりそうので、ここは素直に出るしかない。やはり、この家族は男性より女性の方が強いのだと、改めて実感させられる。
とはいえ、大事な時間を邪魔されて今の俺はちょっと不機嫌だった。志乃の文句に答えを返さず、そのまますたすたと浴室を出てしまった。
出てしまったのだ。
そこに、返答を待って仏頂面を浮かべていた志乃の存在に気付かずに。
たった一枚。たった一枚のバスルームと着替え場所を隔てる壁を、俺は何の感慨も抱かずにスライドさせてしまう。
その先に、我が妹が待ち構えている事も忘れて。
「……あ」
最初に声を上げたのは……俺?いや違う。志乃だ。
志乃の身長は、俺の胸骨ぐらいまでで、女子高生にしては小柄な体格である。その上、俺と志乃の間には五〇センチ程の、恐ろしいぐらいに程良い間隔が置かれていた。それはつまり、俺の全裸を一目で見れてしまうわけで……
「う、うおおおおおああああああ!?おま、お、お、お前なんでいんの!?」
まるで恋する男子に偶然自分の全裸を見られてしまった女子のように身体の部位を手や腕で隠す俺。だが、その心情は乙女のような恥ずかしさなんかじゃない。妹に『握り潰されるかもしれない』という危機感が全身をねっとりと纏わりつく、嫌な感覚だった。
そんな俺の心を知ってか知らずか――いや、知らないだろう――志乃は右手から何か筒状の物を取り出した。って、
「それゴキブリジェットじゃねぇか!何俺に向けてプシューしようとしてんだバカそれを元に戻しやがれいや間違えた戻してくださいお願いします!」
握り潰されるのと同等だぞオイ!あれ、でも別の意味で死滅すんのかな……?
「兄貴、その手をどかして。私にとって、それはゴキブリのように汚らくて不愉快極まりない汚物」
「そんな言い方すんじゃねえ!これは人類の繁栄には必要不可欠な、いわば希望なんだ!」
「そも
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