志乃「機材買おうか」
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よくあるテンプレなボスキャラと同じだった。
「まだまだみたいだね」
くっそぉ……あと三点、あと三点だったんだ。それでもやっと九〇点代に乗り込んだ俺を誰か褒めてくれ。
「兄貴はそのまま腕立て伏せのままでいれば良いだけ。そんなの簡単でしょ」
「簡単じゃねぇ!お前もやれば分かる!」
「私は運動嫌いだから」
それ以外は何も言わせないとばかりに、志乃は俺を睨んでくる。まさかカラオケの室内でこんな事をする日が来ようと誰が予想しただろうか。否。予想する筈も無い。
「ああもう、針のむしろに据わるような感じだよ」
「本当だよね」
「お前は何も辛くねえだろが」
課題曲を歌い上げた結果、九三点を出した俺は、罰として志乃から腕立て伏せをするような形で十分間耐えるという命令が下った。これは体幹を鍛えるトレーニングとして運動部でやられているものなのだが、久しぶりにやると本当に辛い。今にも腰骨が折れてしまいそうだ。
俺の呻きと志乃の含み笑いと曲の注文を受けていないテレビ画面から小音で聞こえる宣伝だけで満たされた異質な空間。こんなの、カラオケじゃない。
その時、突然クスクス笑うのを止めた志乃が、俺に聞こえるぐらいの大きさで呟いた。
「でも、兄貴それなりに歌えるじゃん」
「まぁ、な。耳が腐るぐらい聴いてたんだしな」
「じゃあ、機材買おうか」
「え?」
前置きなど無く、単刀直入に本題を持ってきた志乃に、俺は汗を滲ませながら志乃の顔を見る。
そこには、再び上から目線で俺をバカにしている志乃の姿があったわけだが――口から紡がれる言葉にふざけた色は含まれていなかった。
「機材。動画作りには必須なアイテム。兄貴はその間にもっと曲の練習をして」
「分かってるって」
「なに、その生意気な態度」
「すんません」
それから十分が経過し、額から噴きだした汗を腕で拭い、俺は再びマイクを手に取った。
なんかライブで汗かきながら歌ってるプロみたいな感じだな。
まぁ、汗の原因はライブじゃなくて腕立て伏せなんだけど。
ちなみに、志乃が俺の誘いに嫌がっていた理由については聞きはぐった。どうせ、カラオケに慣れてないとかいうテンプレなオチだろうけどさ。
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