第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
第二節 木馬 第一話 (通算第26話)
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アンマンの宇宙港で乗り換えたのは、アナハイムの専用シャトルであった。それはアブ・ダビアが用意したものではなく、ブレックスがアナハイムに手を回して用意させたものである。つまり、それはブレックスがシャアの正体を知っているという証ではないかとシャアは勘ぐった。
クワトロ・バジーナは従来の慣例を破って、単なる駐留任務に限らず、機動小隊による哨戒任務や警戒任務にもジオン共和国軍が参加できる様に要請したのだ。もっとも、これは以前からブレックスが申し入れていたことではあったが、ジオン共和国政府の許可が降りず、連邦軍統帥本部も難色を示したため実施されていなかったという経緯があったが、ここに来て、ジオン共和国政府から地球連邦政府に参加申請があり、実現した話である。
そのことからも、ブレックスがクワトロに注目していたことは確かであり、何かと実務レベルでの打ち合わせなどで接触する機会が多かった。ブレックスはクワトロに対し、反地球派議員による政治的解決におけるスペースノイドの政治的解放を目的とした組織運動の一員にクワトロを誘ったのである。
そのこと自体が計画に支障を及ぼすことは無いと判断したシャアは、クワトロとして参加することにしたのだ。だが、この歓待は少々大仰である。一大尉に対するものではなかった。
(見破られているか?)
迎えの女性士官があきらかにジオン出身者であることといい、気の回し方といい、クワトロがシャアであることを知っているとしか考えられなかった。
「そろそろ接舷ですね」
アナハイムの専用シャトルがラビアンローズ級ドック艦への接舷コースへと微調整を始めた。一瞬、窓の外にラビアンローズが写る。
「木馬…?」
シャアを驚かせたのは、《ラビアンローズ》に繋留されていた艦が知っている艦にみえたからだ。シャアにとってみれば因縁深い艦である。木馬とは一年戦争で最も有名なペガサス級機動母艦《ホワイトベース》のジオン公国軍が付けた渾名である。
「…?何かおっしゃいました?」
レコアが訝し気にシャアの瞳を覗く。しかし、レコアに写るのはサングラスに遮られ表情の見えないクワトロの顔だった。
「いや、白い艦がみえたのでな……」
「現在、竣工を急いでいる艦ですね。木星船団の建造費を流用したとか…」
シャトルに搭乗しているのはシャアとレコアだけで、会話を第三者に聞かれる心配はない。シャトルの乗組員は全員アナハイムの社員である。木星船団の費用とてアナハイムにしてみれば、自分たちが提供している資金であることに変わりはないとでも言いそうだった。
――クワトロ・バジーナ大尉、当シャトルはラビアンローズ級ドック艦《ラルカンシエル》にドッキングをいたします。シートのリクライニングをお戻しいただき、シートベルトを……
「ブレックス准将の出方を見せてもらおうか」
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