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大阪の蕎麦
第五章
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。大阪には大阪の蕎麦がある」
「はい」
 文太は河内のその言葉に頷く。
「それがこれじゃ。美味いわ」
「そうじゃの、これなら」
「何枚でもいけるわ」
 左右の二人は見る見るうちに食べていく。やはり二人も蕎麦を噛んでいる。
「だしは何を使っているのかわかったのだな」
「ええ」
 文太はまた河内の言葉に答えた。
「ようやくですが」
「それなのじゃ。あと醤油もな」
「ええ、これもわかりませんでした」
 彼は正直に答えた。
「薄口醤油とは」
「江戸と大阪では醤油も違う」
 彼は言う。
「それにも気付かないと駄目だったのね」
「気付きませんでした」
 申し訳ない顔で述べる。
「しかも全く」
「気付かないのも道理。江戸と大阪では何もかもが違う」
「その通りのようで」
「何かあってからはじめて気付くもの」
 そう語りながらその蕎麦を食べていく。いかにも美味そうに。そのうえでまた言ってみせる。
「そして美味いものが作られるのだ」
「そうしてはじめてですか」
「その通り。蕎麦もまた然り」
「はあ」
「それでじゃ。今度は」
「今度は」
 話が少し変わってきた。文太もおゆかもそれを聞く。
「うどんが食いたいな。よいか」
「はい、是非共」
「召し上がって下さい」
「ではその時を楽しみにしておこう」
 河内は蕎麦を啜りながら笑う。武士にしてはいささか身分違いな屈託のない笑みで。これからのことを楽しみにしている、そんな笑みだった。蕎麦の味の中での笑みであった。


大阪の蕎麦   完


                   2008・5・7

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