第五章
[3/3]
[8]前話 [9]前 最初
。大阪には大阪の蕎麦がある」
「はい」
文太は河内のその言葉に頷く。
「それがこれじゃ。美味いわ」
「そうじゃの、これなら」
「何枚でもいけるわ」
左右の二人は見る見るうちに食べていく。やはり二人も蕎麦を噛んでいる。
「だしは何を使っているのかわかったのだな」
「ええ」
文太はまた河内の言葉に答えた。
「ようやくですが」
「それなのじゃ。あと醤油もな」
「ええ、これもわかりませんでした」
彼は正直に答えた。
「薄口醤油とは」
「江戸と大阪では醤油も違う」
彼は言う。
「それにも気付かないと駄目だったのね」
「気付きませんでした」
申し訳ない顔で述べる。
「しかも全く」
「気付かないのも道理。江戸と大阪では何もかもが違う」
「その通りのようで」
「何かあってからはじめて気付くもの」
そう語りながらその蕎麦を食べていく。いかにも美味そうに。そのうえでまた言ってみせる。
「そして美味いものが作られるのだ」
「そうしてはじめてですか」
「その通り。蕎麦もまた然り」
「はあ」
「それでじゃ。今度は」
「今度は」
話が少し変わってきた。文太もおゆかもそれを聞く。
「うどんが食いたいな。よいか」
「はい、是非共」
「召し上がって下さい」
「ではその時を楽しみにしておこう」
河内は蕎麦を啜りながら笑う。武士にしてはいささか身分違いな屈託のない笑みで。これからのことを楽しみにしている、そんな笑みだった。蕎麦の味の中での笑みであった。
大阪の蕎麦 完
2008・5・7
[8]前話 [9]前 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ