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大阪の蕎麦
第五章
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しか人気の店になった。うどんもはじめたがこっちもかなり人気だった。
 目に見えて忙しくなりそれに喜んでいると。そこに河内と彼の仲間の二人の浪人達が来た。河内はまず店に入って笑顔で声をかけてきた。
「繁盛しておるな」
「ああ、お久し振りです」
 文太が笑顔で彼に挨拶をする。
「ようやく来られましたな」
「ようやくも何も二月程前だったか?」
「確かそうだったな」
「うむ」
 三人は顔を見合わせて話をする。
「大体一つに店にはそれ位時間を空けるがな、わし等は」
「左様でしたか」
「大阪は食べ物にはこと欠かぬ」
 河内は笑って語る。
「てっぽうもあれば牡蠣もある。それこそ何でもある」
「てっぽう!?」
「何だ、知らぬのか」
 てっぽうと聞いて目を丸くさせるおゆかに数回目をしばたかせた後で答える。
「てっぽうとは河豚のことじゃ。ああ、江戸では食わぬのか」
「河豚って何だい、御前さん」
「知らねえな」
 二人は顔を見合わせるがやはり知らない。江戸では河豚は食べなかったのだ。理由は簡単で毒で死ぬからだ。幕府が禁止していたが大阪ではその禁止令は行き届いていなかったのだ。これは他の法令の多くも同じで改革の度に出される奢侈贅沢の禁止や生類憐れみの令といったものも大阪では施行されてはいない。大阪は江戸に比べてかなり自由な街だったのだ。二人はそれも知らなかったのである。
「何なんだろな」
「まあ今度教えよう。それよりもだ」
「蕎麦ですよね」
「うむ、せいろをくれ」
「わしも」
「わしもじゃ」
 他の二人もそれに続いた。
「それをくれ。よいな」
「わかりました。それじゃあ」
「せいろ三つ」
 こうしてそのせいろが注文された。暫くして三つのせいろが出された。河内はまずそのせいろを見て二人に楽しげに笑ってみせてきた。
「わかったようじゃな」
「どうでしょうか」
 まずは即答しない文太だった。まるで勝負を楽しむように河内の顔を見ている。
「まずは見た目は合格だ」
「左様ですか」
「ううむ、食欲をそそられる」
「見ているだけでたまらぬのう」
 河内の左右の二人も満面の笑みを浮かべている。もう二人は食べたくて仕方がない。
「ではよいな」
「はい、どうぞ」
 文太が河内に答える。
「召し上がって下さい」
「きっとですよ」
 おゆかも言う。河内はその言葉を受けて箸を取り蕎麦をそれに取ってつゆにつける。それからおもむろに口に入れて噛む。暫く噛んで飲み込んでから答えた。
「美味いのう」
「美味いですか」
「これが大阪の蕎麦じゃ」
 目を糸の様に細めて満面の笑顔で語る。
「これこそがな」
「ではあれは江戸の蕎麦だったのですね」
「あれはあれで美味いのじゃ」
 河内は言う。
「しかしここは大阪じゃ
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