第一章
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実に賑やかな様子である。
「お侍さんがいないな」
「本当にいないね」
まずはそのことに驚いていた。
「町人ばかりじゃないか」
「ええと・・・・・・やっぱりいないな」
探してみてもやはりいなかった。一人もだ。
「これが大阪かい」
「しかもやけに橋が多いし」
「そうだな」
次に気付いたのはそのことだった。やたらと川に橋が多いのだ。
「川も多いしね」
「変わった街だな」
江戸を見慣れている彼等にしてみればそうだった。
「言葉はわかっていたけれどね」
「あれが大阪の言葉か」
「で、蕎麦だけれど」
「おうよ」
女房に対して威勢よく応える。
「もう充分打ってあるぜ。後はお客を待つだけだ」
「そうだね。気合入れてくよ」
こうして二人の勝負がはじまったのだがどうも思わしくはなかった。客は来ることは来るのだがあまりいい顔をしてはいない。二人もそのことにすぐに気付いた。
「おかしいな」
「そうだね」
おゆかが文太の言葉に頷く。
「江戸じゃ御前さんの蕎麦を食べたら皆いい顔をするのにね」
「これは一体どういうことだ?」
伊達に蕎麦屋をやっているわけではない。客の顔もわかるのだ。
「まずいか?俺の蕎麦は」
「ちょっと御免よ」
「ああ」
おゆかはとりあえずざるとかけを少しずつ食べてみる。そのうえで感想を言うのだった。
「変わらないよ。むしろ」
「むしろ?」
「蕎麦の味は江戸のよりもずっといいよ」
こう言うのだ。
「いいのかよ」
「蕎麦粉と水が違うせいだね」
おゆかはそれを素早く見抜いた。これを考えればいい蕎麦と水を求めた文太の読みは見事に当たっていた。しかしそれでもだったのだ。
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