第百七十一話 三河口の戦いその十二
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「しかしじゃ」
「それでもというのですか」
「まだですか」
「そうじゃ」
それでというのだ。
「まだな」
「織田家にですか」
「おられるのですか」
「そうしたい」
松永は誰にもわからない様に、周りの彼をよく知る家臣達にもわからない様にして己の本音を述べたのだった。
「出来ればな」
「織田家に背く時ではないと」
「まだ」
「そうじゃな、まだじゃな」
答えはここでははぐらかした。
「まあ来ぬやもな」
「いや、それはないかと」
「このままでは織田家が天下を統一します」
「さすれば闇である我等は日輪の光に追い立てられます」
「それだけはなりませぬ」
「闇のう。まつろわぬ闇じゃな」
松永はここでも誰にもわからぬ様に言った。忌む気持ちを。
「それは」
「はい、左様です」
「それが我等です」
「まつろわぬ者です」
「闇そのものです」
「本願寺との戦では随分と影を使った」
それはというのだ。
「しかし全て敗れたな」
「はい、ですな」
「織田家の軍勢、思ったよりしぶとうございました」
「長老様も驚いておられるとか」
「織田家があそこまで粘るとは」
「闇の軍勢をそれこそ百万近く出した」
その影達をだというのだ。
「しかしな」
「織田家はまだ健在です」
「むしろ加賀、紀伊まで手に入れ政をさらに固めました」
「石高は千万石を超えました」
「兵も二十六万程にまでなりました」
「織田家は本願寺との戦でさらに強くなった」
結果としてそうなった、織田家は本願寺との各国を巡った激しい戦を戦い抜きその力をさらに強めたのだ。
それは松永もその目で見ている、それで言うのだ。
「磐石と言っていいな」
「全く、あそこで滅べばよかったのですが」
「本願寺も生き残っておりますし」
「出来れば共倒れとしたかったですが」
「そうなりませんでしたな」
「忌まわしいことに」
「信長様は凄い方じゃ」
松永は今度は信長への純粋な敬慕の念も述べた。
「やはりな」
「いえ、凄いではなく」
「何とかせねばなりませぬ」
「織田信長は我等の敵ですぞ」
「闇の者達の」
「そうじゃな、その通りじゃな」
何処か空虚な返事だった、今の家臣達への返事は。
「ではやはりな」
「はい、では」
「今も機を伺いましょうぞ」
「そして織田信長が隙を見せれば」
「その時に」
謀反をとだ、彼等は言うのだった。
「その時は闇の具足を着ましょうぞ」
「我等の本来のものになりましょう」
「色ではなく闇を」
「それを着ましょう」
「闇のう」
ここでも何処か空虚な言葉だった、松永の言葉は。
「それに戻るか」
「時が来れば」
「織田家を後ろから斬る時に」
まさにその時にというのだ。
「その
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