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保育園の先生
第五章

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第五章

「そう言うから」
「一緒ってことは」
「生涯の伴侶よ」
 それだというのだ。
「そうした人と一緒になれって」
「ってことは」
「今十四だから四年後ね」
 男が結婚できるのは十八からだ。法律ではそうなっている。
「その時ね」
「あの、それって」
「いいかな」
 完全に先生のペースであった。
「私で」
「あの、それじゃあ僕は」
「御願いね」6
 今度は有無を言わせぬ口調だった。
「これからね」
「はあ。これからですか」
「お金は私が出せるから」
「お金って」
「十八で結婚してそれから」
 話していく。やはり先生のペースである。
「大学行くつもりよね」
「できればですけれど」
「大学生になったら同居できるしね。生活費は私が出せるから」
「同居って」
「二人でアパート借りて。それで一緒に暮らして」
 先生は将来のことを勝手に話しはじめた。何処か夢見る顔だ。
「大学出たら共働き。けれど子供も二人欲しいし」
「子供・・・・・・」
「これから御願い」
 淳博に顔を向けての言葉だ。
「それでいいわよね」
「交際ってそんなところまでいくんですか」
 淳博は先生の話を最後まで聞いて述べた。
「結婚まで」
「そうよ。だって人って夫婦になってからが本当のはじまりじゃない」
「はあ」
「だからよ。交際したら結婚しないとね」
「どうしてもですか」
「そう、どうしてもよ」
 そのことは変えられないといった口調だった。
「結婚までね」
「結婚、ですか」
「考えたことはあるかしら」
「いえ、そんな」
 慌てた顔で顔を横に振る。振り切れそうになるまでだ。
「そんなことはとても」
「考えたことはないのね」
「一度もですよ、そんなの」
 言葉もだ。慌てたものになっていた。
「結婚だなんて」
「高校卒業まで待ってるから」
「結婚をですか」
「卒業したらね。結婚しましょう」
「卒業したら」
「待ってるから。その間ずっと二人でね」
「交際は、ですか」
 実は彼は交際までしか考えていなかった。しかし先生はというと結婚、そしてそれからも考えていた。実に大きな違いであった。
「続けてですね」
「そうよ。四年の間は結婚じゃなくて交際よ」
「そして四年が経ったら」
「ずっと一緒にいましょう」
 先生はこうも言ってきた。
「それでよかったら」
「交際ですか」
「どうかしら、それで」
 ここまで話したうえでの問いだった。
「それでよかったらだけれど」
「あの」
 淳博にとってはとんでもない話だ。何しろ彼はまだ十四だ。それでこんなことを言われてはだ。戸惑わない方が不思議なことだった。

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