#8『膝下の街』
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トに取り付けられたポーチの中に手を入れ、何かを探る。一体どんな恐ろしいものが出てくるのか……これから訪れる悲劇的な未来に、窃盗犯が絶望しかけたその時。
「……とりあえず、ケーキ喰うか?」
「は?え……えぇぇぇええええ!?」
ハードリアが取り出したのは、ケーキだった。きれいな二等辺三角形に切られた、ふんわりと柔らかそうな黄色いスポンジ。重ねられたスポンジの間と上には、たっぷりと純白の生クリームがのせられている。その中と上には、赤々としたイチゴ。俗に『ショートケーキ』と呼ばれる種類のケーキである。
ハードリアの奇行にめまいを覚えたトマトは、何とか踏ん張って彼に問う。
「……団長?何やってんの?」
「紅日では、尋問の際に犯罪者にかつ丼を食わせると聞いた。ならば別にショートケーキでもよいのではないかと思ってな」
「いやそう言うことじゃなくてね!?というかその知識お前に植え付けたの誰!?」
「ヤマトだ」
「チクショウやっぱりアイツか!」
トマトの頭の中に、第八師団団長の刀使いの顔が思い浮かぶ。故郷の自慢をするのはいいが、頼むから変な解釈をする奴にそれを語らないでくれ。そう念じて、トマトがハードリアに目を戻すと、
「あ、あのっ!そのケーキ、もしかして『ラ・ルシエル』のケーキっすか!?」
「ほぅ、知っているのか」
「もちろんじゃないですか!!雑誌で特集を組まれること十二回、『行ってみたいケーキ屋』ランキング二十回連続第一位(殿堂入り済み)、しかもあそこのショートケーキ、三日前から徹夜で並んでもかえるかどうかわからないっていう代物ですよね!!よく買えましたね……」
「うちの嫁の知り合いがあそこの店員でな。譲ってもらった」
「マジですか!すっげー!」
なんか窃盗犯と熱いケーキトーキングを繰り広げていた。ちなみにポットはその隣でハッピーターンを食べている。いつの間にか二袋目に入っていた。なお、彼の持ち歩いているハッピーターンは特殊生産盤の「ハッピーパウダー200%」とかいう奴らしく、通常版よりもかかっている砂糖パウダーの量が多い。
「トマト」
「……何?」
「こいつは無罪だ」
「何でさ」
「甘いもの好きに悪い奴などいない」
「馬鹿か!?馬鹿なのかお前!?そんな適当な持論で片付けるなよ!!」
「何を言うか。甘いものは正義だ」
駄目だ。覆せない。
この男、ちょっと度を越した甘党なのである。よく見れば咥えているのはタバコなどではなく棒付きキャンディー(ピーチ味)だ。それだけではない。この男、一応は既婚者で、彼の妻と言うのがもともとケーキ屋で働いていた看板娘だというから大変だ。ますますハードリアの甘党を後押ししているようなものである。確かに礼儀正しく、綺麗な人なのだが……毎週水曜の弁当
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