#8『膝下の街』
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ッド……通称ポットは、この食べ物が異様に好きだった。いつでも三袋は持ち歩いている。奇妙なのは、「いつでも三袋」という事だ。一つを取り出しても、いつの間にか三袋になっているのだ。『《王都》七不思議』とか呼ばれているへんな噂話の一つである。
このぼんやりとした男、一応は《十字騎士団》第二師団の団長である。戦場に出ればそこそこ戦うし、ちゃんと仕事もするのだが、この平常運転時のぼんやり具合があまりにも残念すぎる。全く、なぜこんな奴が団長になったのか……。
ふと、気が付いたように、ポットがこちらを向き、呟いた。
「なぁ、トマト……」
「なんだい?」
「……ティーポットに入って……空を飛んでみたいと思わないか」
「思わないよ!仕事しろ!!お前の仕事は何だ!?」
「ハッピーターンを食べる事。あとティーポットに入って空を飛ぶこと」
「違うよね!?窃盗犯の尋問だよね!?」
これだ。これが、この男を残念人間足らしめている部分だ。この男、好物にやられたのか、頭の中が一年中ハッピーなのだ。メルヘンファンタジーに彩られた奴の脳内は、いったいどうしたことかそっち方向のことばっかり考えている。ふとした拍子に「ティーポットに入って……空を飛んでみたいと思わないか」という質問をしてきて、トマトが否定するのがお約束となっている。
「なぁ、窃盗犯、お前はどう思う」
「ひっ!え、えーっと……」
窃盗犯がしどろもどろする。ここで回答を間違えれば、彼の運命は大きく変わってしまうだろう。すでに何人か犠牲者が出ているのを、トマトは知っている。
「そこまでだ」
その時だ。ばん、と音を立てて、審問室の、旧時代的なドアが開いたのは。
入ってきたのは、ダークグレーがかった銀髪の男だ。切れ長のアイスブルーの瞳は、睨んだだけでなく子もさらに号泣するだろうすごみがある。士官めいた服装に、腰には黒鞘の刀。口には何かくわえており、棒がつきでている。
《帽子屋》ハードリア・キュルック。《十字騎士団》第一師団団長、すなわちは《十字騎士団》自体の団長も務める男だ。純粋な物理戦闘能力は確実に《十字騎士団》最強である。それだけでなく、武器を持っているメンバーで彼にかなう存在はいないだろう。
その圧倒的な実力と肩書によって、メンバーたちからは《団長》と呼ばれている。そのまんまである。
トマトとポットのいる机を迂回すると、ハードリアはどん、と壁に手を突き、犯罪者を押し付けた。上から鋭い目で見降ろされた犯罪者は、ひぃっ、と首をすくめ、さらに涙目になってしまう。
「おい」
「は、はひっ!何でしょう!?」
ハードリアの気迫に押されて、窃盗犯は初めてはっきりと言葉を口にする。ハードリアが腰に手を伸ばす。ベル
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