7月7日、涙… その四 『逢いたい』
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の花は確信していた。
それなのに……。
『引っ越すんや。……明日…』
その途端、頭の中が真っ白になった。
気がついた時には、前髪を乱してその場を走り出していた。
聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして、このまま居ることができなかったのだ。
掌を握り締めると、ぐしゃりとメモの角が当たった。
(何でっ…なんでっ……ナンデッ!!!)
…だって、今までそんな話、誰もしていなかった。
クラスの男子も今日はどこに行こうかとまるで、方向違いな会話で盛り上がっていた。
『…っ……はっ…はあ……』
涙が溢れて今、どこを走っているかなんて解らなかった。
ただ、別れ際の彼が不器用に笑った姿だけが胸を埋め尽くしていた。
……それが何故か気づいた時にはもう、侑士(ゆうし)が東京に引っ越していった翌日の朝だった。
「はあ…はあ……っ……」
あんな思いはもうたくさんだっ。
ようやく目的の場所に付いた頃には再び雨が降り出した。
もう、昨日になってしまった七月七日は七夕なのに、記憶に残ってないほど晴天に恵まれたことはない。
今頃、空の彼方では年に一度だけ逢瀬を許された恋人達が今までどおり、天の川に隔てられてお互いを想っていることだろう。
その一方、地上は雲と雨で目隠しをされ、せっかく笹に掲げて天に託した願いも全て濡れてしまっている。
「……はあ……はっ……っ……」
フェンスを乗り越えて着地する際に捻った右足がまだ鈍く痛むが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
ここでメールしてからだとしても、甘く見積もっても、二時間以上は待ちぼうけしているはずの送り主を想像するだけで自然と歩調が速くなっていた。
「……久しぶりやな。……って、どないしたんや!?泥だらけやんっ!!」
苦笑交じりにこちらに近づいてきた人物は、あの頃よりも随分と身長も声色も変わってしまったが、……見覚えがある。
「忍足君っ…なの?」
「ん?…何や、あまりの男前に惚れ直したか?」
そう言い、伊達眼鏡をくいと、指で持ち上げる彼のレンズ越しの瞳はイタズラをした子供みたいに笑っている。
『アホ。そんなん俺に決まっとるやないか』
『いんや、まだ口説き中。邪魔せんといて』
「うっ…」
間違いない。
「おいおいっ。今度はどないしたっ?」
目の前でオタオタする彼をお構い無しに涙が止め処なく溢れてくる。
「……堪忍な」
「っ…」
不意に背中を強く押され、そのまま侑士
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