日輪に月を詠む
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われなくとも分かった。
為政者としての責任から逃れるとは、約束した希望、その全てを与えない選択をすると同義。
月はただ一人、臣下から生きてと願われながらも最後まで責任を全うしようとして、自身を悪の指標に落としてまで民の救済を優先した。
夜天に浮かぶ月の如く、夜の闇の畏れから逃れる光を齎したのだ。
ぎゅっと拳を握る。
月の本当の強さを再確認して。
「責を捨て、のうのうと自身の幸せの為に生きる王など人々を救う王では無い。そのような輩は私の求める英雄では無い。あの子は全てを失って、ただの月として生きる事を決めても尚、徐晃に願ったのでしょう? 生き抜いて、乱世の果てを見て、自身の責を少しでも果たしたい、と。
そして彼女は黒麒麟を喰らっていた。ずっと、ずっと支えながらも他者の願いを喰らい続け、自身の願いをも高めてきた。だから私は……あの子が王に戻れる機会を与え、『覇王の妹』としても申し分ない誇り高い王として月の事を認めたの」
その言葉に現れるは信頼。
敵対する王では無く、自身と同じ想いを宿して世の平穏を掴みとらんとするモノ。盟友では無く、華琳の現身として足り得るからこそ『覇王の妹』
「……利用する、つもりは無いの?」
軍師としての言葉では無く情を乗せて、詠は華琳に尋ねた。
また訪れる沈黙は柔らかい。華琳はお茶を一口コクリと飲んだ。
「するべき時が来れば利用するのは当然。私を誰だと思っているの?」
暖かいお茶を飲んだ後の冷徹な一言はバサリと詠を切り捨てる。
だが……その内側にある想いを知っているから、詠は口の端を緩めた。
消えてしまった彼の男と、抗う術を見つけた親友。その二人と、彼女は余りに似すぎていた。しかし、似ていながら軽くその上を行く……覇王であった。
――責を呑み込み、責を背負い、責を受け入れ、それを教え与える、皆を導くモノ達。月と、秋斗と、華琳の側に仕える事が出来るボクは……どれだけ幸せな軍師なんだろう。
自分の力を確かめるように拳を握る。小さく、何度も。
「……そういった最悪の事態に陥らないようにするのがボクの仕事、そうよね? 華琳」
罪は消えず、それでも前に進む。進まなければならない。これから救う者達の為に、失わせた他者の想いにも報いる為に。
過去の重荷は両肩に背負った。減らす術は無く、増えて行くばかり。
願いを紡げ、想いを繋げ、心の中に響かせる。そうあれかしと続けて行く事で皆が救われるのだ。
彼と彼女達の想いが今、詠の中で重なった。身の内に、たった一つの言葉を刻み込む。
聞いているだけの時とはまったく違う想いを込めた。
……嘗て、願っていた想いを重ねて……紡ぎながら、繋ぐ為に。
――世に、平穏を。
大きく高い金属
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