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乱世の確率事象改変
日輪に月を詠む
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事なのだから良し。でも、私が考えている事を読み取れなければ曹操軍の軍師としてはまだまだね」

 ギリと歯を噛みしめた。悔しい、と思う。自分が役に立つと言った華琳から直接評価を下されるのは、負けん気の強い詠の心を焦がした。
 ふっと微笑んだ華琳は尚も詠に目を向ける事無く、しかし優しい声を綴っていく。

「“悔しい”は成長の為には最高の餌。きっとあなたはこれからも伸びるのでしょうね。……あなたが分かっていたはずの事を話しておこうかしら」
「……なんの事よ?」

 不満を声に乗せ、されども詠は華琳が話しやすいように湯飲みにお茶を継ぎ足していく。
 冷ませるように吐息を一息。後にコクリ、と小さく嚥下した華琳は、漸く秋斗達から目を切り、詠と直接目を合わせた。
 冷たいアイスブルーの瞳は読み取れない複雑な色を宿すも、不敵な微笑みは誰かを試す時のモノ。

「私の軍師になると言った詠に聞くわ。私の治める街を見て、あなたは何を感じた?」

 すっと、詠は目を細め、思考が鋭く尖った。
 単純な事を華琳は聞かない。いい街だ、平穏に包まれている……などと、“他人事”の感想はとても言えない、言ってはいけない。何故なら、自分の軍師になる詠、と言い放ったのだから。
 今ここで、わざわざ話すのなら、月のことと結び付けられない事柄では無い。
 ならばどういう事か。
 回る、廻る。伸ばされた思考の糸を繋ぐ。繋がる先は何か、何処か、そして……何をカタチ作ろうとしているのか。

「そういう……こと、か」

 雷光の如く走る思考の網から、詠は答えを掴みとった。
 華琳が月を認めた理由も、妹にしたいと言った意味も、その問いかけに隠された……覇王の心も。
 目を瞑り、楽しそうに、華琳は視線を試合に戻した。答えを言え、とその背で語る。

「ボク達は導く側。治める全ての街の民、その人たちの心血、汗、想い、願い、苦しみ……それらに『生かされている』」
「ふふ、それで?」

 返す言葉は質問への答えでは無い。ただ、華琳はそれを咎めなかった。
 詠の落ち込む声は哀しさから。華琳の弾む声は……楽しげながらもどこか恐ろしさを含んでいる。

「平穏に暮らす民達が必死に絞り出した命の雫を、ボク達は飲んで生きる事が出来る。だから……ボク達は……民の望みを叶え、安定を約束し、生きる希望を与え、平穏な生を全うできるように導かなくちゃいけない。人々の想いに応えなきゃダメ。それが政事に携わる為政者としての当然の義務。そして責任」

 詠に、自分から言わせなければならなかった。
 その義務を“投げ捨てた”詠に、その重さを噛みしめさせ、内側の澱みを呑み込まさせなければならなかった。
 今まで華琳が話してこなかったのは、詠を助けた秋斗の事を先に知っておきたかったから
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