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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
闖入劇場
第九三幕 「予見不能回避不可能、ただし後悔可能」
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先生に付きっきりで指導され、皆より1日早く学園に帰ることになっている。初日と最終日は訓練がなく自由時間なのだが、直射日光に当たりすぎるとふらっと倒れてしまうベルーナにとっては退屈な時間でしかない。それに訓練にしても他の生徒と同じスケジュールで行うのは体力的に無理があった。かといって連れて行かないのも・・・と言う話でもめた結果、こんな形に落ち着いたのだ。
ふと視線を感じて顔を上げると、運転席の言葉先生がミラー越しにこちらの様子を伺っていた。

「デッケン。気分は悪くないか?」
「・・・普通です」
「そうか・・・悪くなったらちゃんと言えよ?」
「それ、聞くの5回目・・・」
「・・・・・・それだけ心配なんだっ」

微かに顔を赤くした先生はぷいっとミラーから目をそらして再び運転に集中する。ここ最近はあまり会う事が無かったが、やはり目の前で倒れた僕のことは覚えているようだ。車に乗るまでも肩にそっと手を添えられたり車に乗る時にお姫様抱っこで乗せられたりと重篤患者の付き添いのような甲斐甲斐しさで接された。何だか、体は先生の方が大きいけどちょっとミノリや祖国の友達に似た雰囲気を感じるので、それほど嫌ではなかった。

ベルーナは、気分が悪くはない。機嫌がいいかと言えば、それほどでもない。日本の夏はとても蒸し暑いと聞いているし、またミノリに迷惑をかける形になっていることはあまり愉快ではない。しかしそれ以上に、ベルーナの胸には振り払えない靄が渦巻いていた。

久しぶりに、あの夢を見たのだ。

砕け散る砂時計と試験管。暗黒を舞う光の飛沫。歪な舟、蚕食の蟲。
崩れ落ちる神像と、起き上がる巨人。美しい青色の球が、瞬く間に砕け、削れ、燃え、色を失う。
そして最後に、残骸の頂上に独り佇む黒い巨人。
他にもたくさん見たような気がするが、全ては覚えていない。
ただ、今日の夢はその巨人が、緋色の瞳を僕に向けたのだ。
耳にこびり付く人間の声が、今までよりもずっと近く、やけに生々しく感じられるのだ。

近付いている、気がする。
何に、というのは分からない。それでも、狭まっている気がする。戻っている気がする。
じわりじわりと、水が布に沁み込むように、向かうべきではない場所へと。それは心象的な、何一つ実体を伴わない漠然とした意識だった。
近づいているのは何なのだろう。あの黒い巨人だろうか。白い祭壇だろうか。誰かがそちらに行ってはいけないと後ろから叫ぶが、それもベルーナには分からない。ただ、心はどうしてか、向かうべき場所を求めている気がした。

ふと、窓の外を見たベルーナは、空にひときわ暗い雲を見つける。積乱雲だろうか、だとしたら雨が来る。だが―――

―――あの薄暗い雲もまた、呼んでいるような気がした。



= = =




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