第三章
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ゃあ今日はちょっと楽しい場所に行かない?」
「楽しい場所って?」
「私の家よ」
そのにこりとした笑みのままでの言葉であった。
「お母さんに紹介したいの。いいかしら」
「恵理子ちゃんのお母さんって?それじゃあ」
「これ以上は言う必要はないわよね」
「うん、わかるよ」
もうこれ以上は言うまでもなかった。文哉もわかったのだ。
「前から話はしていたけれどね」
「どんな話なのかなあ」
それを考えるだけで気恥ずかしい。不安でもあるがそれと共に期待もあった。
「悪いことは言っていないから。いいわよね」
「喜んで」
こうして恵理子と共に彼女の家に向かう文哉であった。彼はこの時も恵理子の家でも無邪気なその心と笑顔を見せるのだった。そこでも。
恵理子とその母との顔合わせも心地よく終わった。それは文哉にとっても恵理子にとっても満足のいく結果であった。ところが話では終わりであった。
「えっ、今度はそれ!?」
「うん、絶対に似合うよ」
また恵理子にそんな話をしている文哉であった。
「眼鏡も。恵理子ちゃん目も奇麗だし」
「奇麗かしら」
自分ではそんなに自信はないのだ。だが客観的に見て恵理子の目は奇麗であると言えるものである。彼女が自覚していないだけなのだ。
「奇麗だって。だから眼鏡も似合うよ」
「眼鏡をかけたらかえって目立たないんじゃないかしら」
「それが違うんだよ」
文哉はあくまでそう主張するのだった。
「眼鏡をしているからこそ目立つし」
「そうなの」
「そうだよ。だからね」
また恵理子に言う。積極的に。
「明日かけてきてよ。持ってるんだよね」
「一応はね」
持ってはいる。しかしそれこそもう何年もかけてはいない。だからどんなふうなのかは自分でもわからなくなってしまっているのだ。
「じゃあ御願いね」
「わかったわよ。それにしても」
この言葉の後半からは恵理子の独り言であった。
「私にだけ浮気して。変な浮気ね」
苦笑いを浮かべつつの独り言であった。あくまで彼女だけの。その苦笑いと独り言の中でやはり彼の浮気を受け入れるのであった。自分に対しての本気と浮気を。
ショートヘア×ロングヘア 完
2008・2・11
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